第12話チート出汁で料理をすれば、当然その料理も……な回
応接間につくまでも着いてからもサーナさんはずっと俺に謝りっぱなしだった。
ライトさんとの見事な立ち回りを見て絶対な自信はあったが、あんなことを言うべきではなかった。と。
「おかげで自分がどんな能力を持っているかわかりましたし、こうして無事なのでもう忘れましょう。
あわてたサーナさんなんて珍しい物も見られましたしね」
「もう、ツユマル様ったら……わかりました。過度な謝罪もご迷惑でしょうし、今後の協力でお返しします」
「いや、もうすでにかなりお世話になっていてすでに肩身が狭いんですけど……」
「いやいやツユマル殿、これからもっと大変になります。
もちろんこのケムリもお力になりますぞ!
あの薬が広まればこの国、いや世界でどれほどの者が助かるか……」
「自分なんかでも誰かの助けになるのなら、頑張ります」
こちらに来て、いろんな人に優しくしてもらって、少しでも恩を返したいという気持ちが大きくなっていた。日本ではコンビニに行くときも何度も職質を受けて、ヤンキーには舌打ちされ、女性は早足で距離を取られる日々だが、こちらに来てからは夢のような毎日を送れている。
ああ、この場に送ってくださった神様、ありがとうございます。
しかりつけて馬鹿とか言ってごめんなさい。
ギルドマスターがハッスルしている間にも色々と出汁製品の取り扱いについて話し合っていた。
「薬として貴重なのもわかるんですが、自分としては本来の役目である料理に使える出汁のおいしさを広めていきたいのです」
「確かに、あれは飲んでいても本当にホッとする優しい味で……」
「なるほどのぉ……」
「簡単に作れる物もあるので、ちょっと材料取ってきます!」
「ツユマル様言っていただければこちらで!」
「いえ、一度案内してもらった市場を見たいというわがままでもあるので……」
「それでしたら共に参りましょう。ケムリ様、少々席を外しますね」
「ああ、あの筋肉が戻ってきたらそう伝えておく、そんなにかからんじゃろ?」
「ささっと材料買って、調理はそこでやります」
ギルドでは冒険者が自由に使えるエリアがあり、そこで調理も可能だ。
それにしても、サーナさんと市場を見て回るとか、ま、まるでデートじゃないか……!
めっちゃ護衛に囲まれたデート(笑)になりました。
「サーナ様だ!」
「ああ、サーナ様今日もお美しい!」
護衛の理由もすぐに分かった。この街でのサーナさんの人気は凄い。
護衛の方々がいなかったらもみくちゃにされてしまっただろう。
「うちのお店の食べてってサーナ様!」「こっちのもほれ護衛の方々も!」
軽食を出店で出している人達や、果実などを護衛の人たちはすぐに両手がいっぱいになるほどもらってしまう。
「凄い人気ですねサーナさんは」
「皆さんが本当に良くしてくださって助かっております」
俺がサーナさんに話しかけると、周囲の男たちの目線が鋭くなって怖い……
「ところでツユマル様は何をお求めですか?」
「とりあえず鳥の卵と、その肉、あとは根菜が少しあれば……」
「野菜はどうやらたくさんいただいてしまったので、卵と肉ならこの先ですね」
そっとサーナさんが俺の手を引いて店に案内してくれる。
嬉しい、死ぬほど嬉しいのだが、ぎりぎりと歯ぎしりが聞こえて来て背筋を冷たい物が走る……
何とか無事に目的の品を手に入れたので、調理器具を採りに戻り、良さそうな器も借りていく。
個人的に出汁のおいしさを一番よく感じられる料理と思っているアレを作る。
たくさんの男性の怨嗟の視線から逃げるようにギルドへ戻ってくる。
俺はすぐに調理にかかる。
そういえば、俺がとった出汁には状態保存魔法がかかっているらしく、常温で置いておいても痛んだりしないとケムリさんに教わった。ありがたい。
おかげで俺は出汁を取って常備しておくことが出来ている。
調理と言っても、この料理、めちゃくちゃ簡単だ。
具材のキノコ、鶏肉、三つ葉を小さく切りそろえ、湯飲みのような形の器に入れる。
卵を割って泡立たないように良く混ぜて、だいたい卵の容量の3倍ほどの出汁を静かにいれて混ぜる。
味付けは塩だけ、優しい味わいになるように控えめに。
あとは具材の入った器の8分目くらいまで卵液を入れてあげる。
もう後は器ごと蒸してあげれば完成だ。
蒸し器も鍋と皿を組み合わせて作った。無ければレンジでも作れる。
蒸気が出ている状態から強火で3分ぐらい、その後弱火で10分ぐらい。
容器を傾けて汁が透明になっていれば完成だ。白濁してる場合にはもう少し火を入れる。
これだけで、ぷるっぷるの茶碗蒸しの完成だ!
器が熱くなるから、取扱には十分注意しよう。
「これが……神薬ネクタルを使った料理……」
「出汁のいい香り……それではツユマル様いただきますね」
「どうぞどうぞ」
蕎麦屋の頃もこの茶碗蒸しとだし巻き卵は人気メニューだった。
「おいっしぃ!」
「旨い!!」
よしよし、大好評だ。
「ところでケムリさん、これ茶碗蒸しって料理なんですが、薬の効能残ってます?」
「おお、そうじゃな。『鑑定』……
ふむ、回復効果は残っておらんが、身体強化、栄養強化? 聞いたことないのぉ……
無病息災? これも見たことない……しかし、体がポカポカして、気持ちがいいのぉ……
心なしか肩も腰も軽くなったような……ん? いや、痛みも、なんじゃこれ……?」
ケムリさんは体の動きを確かめるようにストレッチをし始めた。
「もしや……これは腰痛なども改善するのか……?」
「ツユマル様、この料理とても美味しいです」
「いやー、気に入ってもらえてよか……った……です……」
「どうしました?」
そう問いかけるサーナさんは、さっきまでの美しさを10とするならば15,いや20は美しくなられていた。肌はつやっつや、唇はぷるっぷる、もともとの美しさにやっと慣れたのに、思わず息を飲んでしまった。
どうやら、出汁を使った料理も、まぁ当然なんだけど、只者ではないものが出来上がるようだった。
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