第14話 焼肉店での雑談
「ほいじゃあ、まあ。お疲れカンパイ」
「お疲れ様です」
贅沢で高級な店内の個室で、男二人が軽くグラスを合わせる。そして、グビグビと飲み込んだ。冷えていて、とても旨い。練習で疲れていた体に染み込んでいく。
運ばれてきた肉を次々と焼いて食べながら、野々瀬さんと雑談する。
「今年の調子は、どうだ?」
「良い感じですね。キャンプの初日とか二日目辺りぐらいは体がバキバキで、かなり大変でしたけれど。もう、大丈夫ですね」
野々瀬さんに、キャンプの様子について聞かれた。感じたことを素直に伝えると、彼は頷きながら俺の話を聞いていた。
「野々瀬さんは、どんな感じですか?」
「俺は毎年、春季キャンプのスタートが大変でな。年々、体の老いを実感してるよ」
「大変ですねぇ。でも、先日の試合で活躍してたじゃないですか。レギュラーは確定じゃないですか?」
「まあ、なんとかやってるよ。まだまだ、若い連中には負けられんからな」
そんな会話をしながら、美味しい肉に食らいつく。今日は珍しく、二人だけの食事だった。普段なら、俺と同じ年頃の選手や若手などを何人か一緒に連れてくるのに。
おそらく、何か大事な話があるのだろう。その内容について、ある程度は予想していた。俺の予想が正しければ、多分あの話だと思う。
「今年は、優勝できるかな? 裕一は、どう思う?」
「チームの戦力は充実していて、雰囲気も良いです。去年の悔しさを忘れずに、皆の気持ちが優勝に向かっています。おそらく、優勝できると思いますよ」
「そうか……。そうだな! 今年こそ、必ず優勝しような!」
俺の意見を聞いて、嬉しそうに笑う野々瀬さん。チームのキャプテンとして、優勝したいという熱い気持ちが伝わってきた。
それから、他にも色々な話題で野々瀬さんと語り合った。彼はキャプテンであり、5歳も年が離れている先輩だ。けれども、とても接しやすい人だった。だから、今のような二人での食事も苦労とは感じなかった。会話も面白くて、とても楽しい時間を過ごせている。
しばらくして、会話が途切れた。そして、野々瀬さんが真剣な表情で聞いてきた。
「裕一。お前、今年で引退するって本当なのか?」
やっぱり、それか。今回の二人での食事の目的は、その真意について聞き出すためだというのがハッキリした。
真剣に、野々瀬さんの質問に答えよう。まっすぐ彼の目を見て、俺は言葉にした。
「はい、本当です。俺は今年で引退するつもりです」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます