06


 あいつが事件を起こす前からその兆候はあったんだ。俺は気が付いていながら奴らに手を貸していたのかも知れない。

 俺の仕事は聞き屋だ。普段はこの場所で通りすがりの誰かの話を聞くだけだ。ただごく稀に、その話の中に潜む事件性を感じることがある。俺はその事件を勝手に調べて勝手に解決をする。するとどういうわけか報酬が得られるんだよ。俺が話を聞いた本人からのお礼もあれば、その事件に関わっている別の誰かだったり加害者側からだったりすることもある。稀にだが、警察官からの賄賂も受け取っているよ。なんてな、実際には正式な依頼としての報酬だ。

 そこの交番の二人とは仲良くさせてもらっているが、もっと厄介なのが顔を出していた。俺は少し気がつくのが遅れてしまったようだ。今考えればだが、あいつが初めて話かけてきたときにも、その顔が背後に隠れていた。

 奴の正体が公安警察だと知ったのは残念ながらつい先日のことだ。その後奴は俺に多額の報酬を落としていったよ。妙な一言と共にな。

 全ては予定通りだ。あなたの心配は稀有に終わる。

 それは昨日のことで、事件が起きる前日のことだった。

 俺はなにもしていないが、報酬は頂いたよ。まぁ、種を蒔いたのが俺であることに間違いはない。後はこれから先の報道で確認するしかないのが不安ではあるが、俺は奴を信じることにしているんだ。それは報酬を貰う前から決めていた。

 俺はあいつが銃を自作している可能性と宗教に嵌っている縁を切った母親がいることをほんの少しある人物の側近に漏らしただけだ。あいつが言った総理大臣か天皇一族暗殺の冗談も含めてだがな。

 俺はこれでも顔が広いんだ。ここへ直接お偉いさんが来ることはないが、その側近はよく来る。

 残念なことに、一つ前の総理大臣がこの街出身を謳っている。いい迷惑だよな。実際には遠くの街の坊ちゃんだ。ただご先祖様から続く政治基盤がこの街だったってだけの話だよ。少なくとも一部を除いた多くの市民は相手にしていない。

 けれどまぁ、政治の力は時に利用価値がある。俺はその為に恩を売ることもある。その繋がりが今でも残っているんだ。

 その側近は今の総理大臣の元でも働いているんだが、まぁ色々な問題が山積みなんだそうだ。それを一気に解決させる案に頭を悩ませていた。俺との会話からアドバイスを引き出すなり俺が勝手に解決することを望んでいるようではあったけれど、なにせ情報が少な過ぎる。キーワードは前々総理大臣と宗教問題。いまだに権力を振りかざしているのが邪魔だそうだ。なんとか押さえつける方法がないかと考えているようだった。俺はほんの少しあいつの情報を与えてしまったってとこだ。もちろん意図的ではあるけれど、その後の行動に確信なんてなかった。

 その側近の行動も、奴は監視していた。流石はプロだよな。俺がまだまだだってことか?

 奴がどうのとは関係ないが、選挙が近かったこともあり政治や宗教の話をする誰かが多くいたのは確かだったよ。俺は無意識な相槌をいくつか打っていたな。まぁ、聞き屋にとっては日常でもある。若者は恋愛話、中年は会社と家庭の愚痴、そして年寄りは政治と宗教って相場が決まっている。もちろんそれ以外も多いのは言うまでもないけれどな。

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