2-1 第二の故郷

第48話 再会


(ここは……)

 見覚えのある光景だ。

 と感じるなんて奇妙な事だ。

 ここにはほんの少しの間しか滞在しなかったというのに。


「久しぶりだね、大和くん」


「あ……お久しぶりです神様」

 神様とお会いするのは一年ぶりか、この一年色々あったせいか何だかもっと遠い過去に感じる。


「レシレンでの暮らしは順調みたいだね」


「神様が授けてくださった力のおかげです。ありがとうございました」


「素の君のままじゃちょっと厳しかったもんね。あまり干渉できない分それぐらいはね」


「またお会いできて嬉しいです。定期的にお祈りしていてよかったです」


「そ~! 届いてたよ。瞑想して話しかけてくれてたよね」

 毎日では無いが、宿に帰ってから就寝前、座禅を組み静かに瞑想するのをルーティーンとしていた。

 特に敬虔な仏教徒というわけではないが、神秘的な儀式を思い浮かべた時に連想したのが座禅だった。


「俺にとって神様は、向こう地球からこっちレシレンに来た時には唯一の繋がりでしたから。不敬ながら肉親みたいに感じています」


……それいいね! 嬉しいよ!」


「お怒りにはならないんですね」


「え? なんで? 嬉しいじゃん。僕もこう見えて結構寂しかったりするし」

 寂しいとかそういう次元の存在なのか疑問ではある。

 だが神様が好意的に思ってくれているのなら素直に俺も嬉しく思う。


「それならよかったです。そういえば何故また俺をここへ? やっぱり俺は死んでしまったんでしょうか」


「ううん、死んでないよ。久しぶりに話でもしようかと君の魂に直接会いに来てるんだ」


「つまりここは俺の夢の中とか、そういう風に解釈すればいいでしょうか?」


「そうだね、そんなとこかな。でも今、現実の君は死にかけてるから、身体から魂が離れて行きそうだけどね~」


「実際死にかけてはいるんですね」

 相変わらず軽いノリで恐ろしいことを言う神様だ。


「うん。でも心配いらないよ! 君は頑張ってきた、だから運命は君を見捨てない。"ヤマト"は大丈夫だよ」

 事に関しては何を指すのかよくわからない。

 生きる事に必死なのは人間誰しも同じだろう。

 死にかけてるという話だが、神様なら何が出来ても不思議じゃないし、なんとかしてくれるということだろうか。


「それよりもさ! って、僕はお父さん? 妹? あ! もしかしてご先祖様かな!?」

 さすが理外の存在、年齢も性別も意味をなさないようだ。

 もしくは軽いノリから発想された冗談か。


「ん~……特定の立ち位置というより、包括的な意味での肉親でしょうか」


「ムム……それじゃあ面白くないね。じゃあ君に会う時は僕の気分次第で色々な立ち位置でいる事にしよう──じゃあ早速、今から僕はお父さんね!」

 正直戸惑いは覚えるが、神様が楽しそうにしているので、親しみやすくて俺としては助かる。


「我が息子よ、よくぞ頑張って生き抜いた。父はお前を誇りに思うぞ!」

 神様は威厳を込めた雰囲気でそう話すが、見た目が少年(?)少女(?)のままなので子供の"ごっこ遊び"にしか見えない。


「ふふっ──口調だけ変えてもどうかと……」


「あれ? そりゃそっか。まぁ今日はもういいや、次から楽しみにしててね!」


という事は、またお会いしてもらえるんですか?」


「もちろん! なんたって僕は君のだからね!」


「リーフル以外にも家族が出来たようで嬉しいですね」


「リーフル? 可愛いよね~あの鳥ちゃん。羨ましいなぁ、君と一緒に自由に冒険できるんだから」


「そうだ!──リーフル!! リーフルは大丈夫でしょうか!?」


「心配しなくていいよ、あの子は大丈夫だから」


「よかった……あ、そうです、リーフルに関連してお聞きしたかった事が。俺がある程度魔物や動物の考えてる事が分かるのって、やっぱり加護の力ですか?」

 

「そうだね~大体そんな感じ」

 

「そうなんですね」


「……普通の日本人だった頃を思えば動物達の考えがわかるだけでもすごい特殊能力だと思います。でもリーフルと触れ合っていて、もどかしいことも多くて……」

 神様はどうも俺に優しく接してくれるので、あわよくばと思い切ってお願いをしてみることにした。


「あ~確かに。今回の君のピンチも、リーフルとちゃんと会話出来ていれば、もっと安全に事を運べただろうね~」


「パワーアップ……お願いできませんか……?」

 恐る恐る聞いてみる。


「ん~……というかそうなる? と思うよ。ま、目が覚めたら分かるかな。前にも言ったけど、体験して把握してね!」

 相変わらず要領を得ない答えだ、神様がまた力をくれるという事だろうか。

 神様は人間達にあまり干渉しちゃいけない様子だし、そんな制約がある中で俺に協力してくれているんだから、なんにせよ有難い限りだ。


「わかりました。厚かましい事を言いましてすみません」


「ううん、ホントはもう少し協力してあげたいんだけどね~」


「それと、獣人達の村で"おとぎ話"を聞いたんですけど、あれって神様の事でしょうか?」


「おとぎ話? ちょっと待ってね……フムフム、君の記憶から内容は分かったけど、面白い話を作ったね!」


「という事は神様は関係ない……ただの人間の創作物だったんですね」


「ん~……そうとも言えるし、そうじゃないかもしれないかな~」

 ……全く要領を得ない。

 もしかして、ただ面倒がっているだけでは無いかと思えてきた。


「まぁ難しいことは考えずに、君はまた平凡に人生を歩んでくれればいいんだ」


「そうですか……」


「お祈り、続けてくれると嬉しいな。繋がりが強まれば、会える事も多くなるだろうし」


「はい、欠かさずに。俺もまたお会いしたいですし」



 身体が発光し透けていく、どうやら夢から覚める時間のようだ。


「おっと、今はこれぐらいが限界みたいだね。"名前"考えておいてよ、折角君が僕の事をと言ってくれたんだから、神様と呼ばれるんじゃ寂しいしね」


「わかりました! 神様もお元気で!」

 不敬にも家族とまで表現してしまうくらい親しみを感じ、暖かい気持ちになる。

 ノリが軽い事に関しては些かひっかかるが、これからも変わらず瞑想を継続していこうと思う。


 眠りにつくように意識が遠のくにつれ、誰かが俺を呼ぶ声が聞こえてくる。


『マ……ト……ヤマ……ト……』

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