第31話 確認


 メイベルのサウドへの移住計画に協力すべく、マーウ達と別れ冒険者ギルドへと場所を移した俺達は、併設の酒場に腰を下ろした。

 何をするにしろ事前に話し合いは必要だと思うので、まずはメイベルから詳しい希望を聞くことにした。


「とりあえず。自立したいって話だったよね?」


「うん。実は村では、未婚の男女は一緒に住んじゃいけない決まりになってるの」


「そうなんだ」

 

「私とブランは姉妹みたいな存在で、私達は村のみんなの力を借りて女同士二人で暮らしてきたの」

 どこか寂しそうにメイベルが語りだす。

 

「ブランがマーウと一緒になったでしょ? だからこれを機に私は家を出て今の家を二人にあげようと思うの。私がブランにしてあげれる事はそれぐらいしか無いし」

 

「なるほど、夫婦になれば同居出来るようになるんだもんね。でも確か、獣人族は森での生活が性に合ってるから、街に住まずに村で暮らしてるって聞いてたけど?」


「小さい頃から年に一度ぐらいだけど、私とブランを村の大人の人が街に連れて来てくれたの。一番最初に見た街の──人の華やかさがすごく印象的で、ずっと憧れてたの」

 獣人と言っても村を出たがる人もいるのか──そういえば動機は違えどロングもそうだった。

 それは人族でも同じことか、獣人だからと一括りに出来るものでもないんだろう。


「だから家を譲り空けて、自分もこの機会に街に出て来て独立しようと?」


「そうなの。今までは街に伝手なんて無かったし、私に何が出来るのかも分からないけど──ヤマトさんには本当に迷惑だとは分かってるの、でも今回を逃すと一生後悔しそうで……」

 人間、何かを始める時は"きっかけ"があった方が、一歩を踏み出しやすいのは俺も思う所だ。 

 気持ちは理解できるが、それはそれとして、重要な事を確認しなければならない。


「迷惑だとは思わないけど、面倒は見れないよ?」


「えっ?! ご、ごめんなさい。私何か気に障る事しちゃったかな……?」


「あ、ごめん。言葉が足りなかったね。"冒険者"は勧めたくないって話だよ」


「どういう事?」


「さっき宿でブランが言ったように、俺は冒険者としてそんなに強くない。だから危ない仕事クエストはなるべく選ばないようにしてるから、必然的に報酬額の幅が狭い」


「そうなの? 冒険者ってもっとお金が貰えると思ってたわ」


「ピンキリだね。当然危険性の高いクエストは報酬も高い、逆もまた然りだね」


「ヤマトさんに教えて貰って、私も簡単なクエストを受ければいいんじゃないの?」


だよ。それだけじゃあ生活していけないんだよ。冒険者にとってクエストは早い者勝ち、毎日確実に仕事にありつけるか、ギルドは保証してくれない」

 実際冒険者として登録してみるが、何かしらの才能──例えば戦闘巧者だとか、顔が広い者だったり──が無い者は、その実入りの少なさから冒険者一本では生計を建てられず、諦めをつける者も多い。


「『じゃあどうしてヤマトは?』と思うだろうけど、俺には"アイテムBOX"がある。下位とはいえ、自慢じゃないけど同じような実力の冒険者よりも、こなせる仕事の種類が多いんだ。だからなるべく安全を優先しても食べていけてる──ドサッ」

 異空間を出現させ、二メートルはありそうな木材を取り出して見せる。


「冒険者って、マーウから聞いてた話と違って危険っていうよりも、厳しい生活なのね……」


「本質は命懸けの実力主義の職業だけどね。例えばメイベルに特別な何かがあれば大成も出来るだろうけど」


「じゃ、じゃあ私と一緒にパーティーを組んでくれたら……!」


「仮に俺とパーティーを組んで二人で活動するにしても『実はメイベルが戦闘の才能がすごくて、誰よりも強かった』とかじゃない限りは、上位のクエストは受けないと思う。だから報酬が割に合わないんだよ、ソロじゃ無いと」


「そ、そんなのやってみなきゃ……私だって何か戦闘の才能があるかも知れないし!」


「確かに実際にやってみないとわからないよね。けど、そもそもを言うと、命を張るような仕事を勧めるのは嫌なんだよ、俺は」


「で、でも体験させてくれるって……」


「もちろん後で連れて行くよ? 実際に見ないと納得も出来ないだろうし。俺が言いたいのは、他で仕事が見つかれば、わざわざ冒険者をする必要は無いんじゃないか?ってこと」


「……」


「大丈夫、焦る気持ちも分かるよ。今はブラン達を説得するために、早く決めなきゃって思ってるだろうけど、視野を狭めないで落ち着いて考えてみよう?」


「……ヤマトさんの言う事はとても理解出来るわ。クエストに連れて行ってもくれるって言うし、私の力をまずは確かめたいと思う」

 ここまで問答をしていてわかったが、必死さが全面に出てしまっているだけで、話は素直に聞いているし、無謀な性格というわけでも無いようだ。


「そうだね。とりあえずスライムの魔石の納品──スライム退治でもやってみようか。街を出て草原にしか行かないし、危険性はほとんど無いしね」


「わ、わかった、頑張る!」


 スライムの魔石の納品クエストを受注する為、掲示板からクエスト票を取得し、受付へと向かう。



「おはようございます。今日はこれをお願いします──スッ」 「ホホーホ(ナカマ)」

 カウンターへクエスト票を差し出す。


「おはようございますヤマトさん、リーフルちゃん。あれ? そちらの方は──まさか! とうとうヤマトさんもパーティーを!? しかもこんなかわいい子を……隅に置けませんねぇ」

 キャシーがメイベルを見ながらニヤニヤと受付業務をこなしている。


「そう見えますか? 補足情報に"メイベル"でお願いします」


「メ、メイベルです! お願いします!」


「ですよね~。 なぁんだ、面白い事になりそうだと思ったのに──サラサラ」

 冒険者を体験、見学させると言うのはしっかり制度として設けられている。

 同行する冒険者では無い者の万が一に備え、補足としてクエスト受注者に同行する者の名前を明記しなければならない決まりがある。


「ご住所はサウドでしょうか? 村でしょうか?」


「お、同じ村に"マーウ"という登録済みの冒険者が居ます。彼と同じ村に住んでいます」


「ヤマトさんが付いてるので絶対大丈夫ですからね。安心してくださいね」

 俺の事なのに、何故か誇らしげに自分の胸を打つキャシー。

 

「キャシーさんも意地が悪いですよ。クエストは"スライム"、先導者は"平凡"、これで『新パーティー結成!』とは見えないでしょ」


「冗談ですよ。でもただの意地悪では無いんですよ? ヤマトさんにはもっと活躍していただきたいと思っているんです。この間も臨時パーティーを組んで、見事な成果を上げてたじゃないですか」


「あの時はメンバーに恵まれたおかげですね。俺に関してはミスしましたし」


「……まぁそういう事にしておきます。受付業務で内容を逐一確認している私には分かってますからね」

 

 受付を済ませた俺達は、スライムの魔石を集める為に草原へと出掛けた。

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