第6話 村の調査 2


 ふと誰かの視線を感じた俺は、話を続けながら眼球だけチラッと動かし確認をする。

 俺達の立っている場所とは広場を挟んで反対側の家に、入り口から半身だけ出してこちらをジーっと観察している者を見つけた。

 外部の人間が物珍しく見えるのかも知れないな、あまり森の外へは出ないという話だし。


「ところでヤマトさん、神様のおとぎ話はご存じですかな?」


「おとぎ話ですか。いえ──どういった内容ですか?」


「でしたらお聞かせしましょう。」

 そう言って村長が聞かせてくれた話はこうだ。


 昔々神様は、人族、獣人族、エルフ族、という三つの人間をお創りになられました。

 『生きとし生けるものは違いがあるからこそ素晴らしいのだ』と、人間を三つに分けたのだという。

 そして神様はこうおっしゃられた。

 『各々が懸命に生き、さらなる繁栄を望まんとする時、それぞれを象徴する存在を用意する』と。

 人間族にはさらなる英知の発展のため"賢者"を。

 獣人族にはたくましく獣人を導く"導き手リーダー"を。

 エルフ族には自然と人間との調和をより進める"精霊"を。

 その者らを見出したその時こそ、さらなる繁栄が約束されるであろう。


「といった具合の内容です」


「へぇ~、そんな話があるんですね。でも何故その話を俺に?」


「ヤマトさん、あなたはとても親しみの沸く、それでいて神秘的な匂いを纏っているのです。多分鼻の利く獣人の私共しかその匂いは感じ取れないでしょう」

 匂いと言われ、思わず自分の服やら脇やらを確認してしまう。

 そういえば案内してくれたマーウもクンクンしていた。


「いやいや、臭いわけではないのでお気になさらず。しかし……無条件で親しみが沸く匂いなど、五十数年生きてきましが初めての匂いです。つまり、もしやヤマトさんがおとぎ話の導き手リーダーではないかと……」


「俺が? よしてくださいよ村長。実際に存在する人間である占い師のだって当たらないのに、ましてやおとぎ話なんて。創作物でしょう」

 確かに実際に神様と会ったとはあるし、加護やスキルも授かっている。

 名前が"の加護"となっているくらいだから、動物に関連したものなんだろうけど……村長の言う匂いがそれか?

 でも特別になにか使命が与えられているわけではないし、スーパーパワーも持っていない。


「それに俺は紛れもない人族です。獣人の象徴となるのは獣人なのでは?」


「それもそうですな。困らせるような事を言って申し訳ない」


「いえいえ、面白い話が聞けてよかったです」

 そんな話をしているうちにマーウがやってきた。


「マクアクさん、終わったかい?」


「あぁ、ヤマトさんのおかげでなんの問題も無いぞ。呼び止めてしまいすみませんでした。ヤマトさん、お帰りの道中お気をつけて。またいつでも遊びにいらしてください」


「はい、ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 村の入り口を目指し、マーウと話をしながら歩き出す。


「どうだったこの村は、納める税は上がりそうか?」


「いや、この様子だと額は据え置きでしょうね。人口も増えてないし、敷地もそのままだし。商材も以前のままボンドツリーの樹液や魔物の素材ですよね?」

 ボンドツリーの樹液は接着剤に使われる素材で、森の深くには多く見られる。

 森深くに居を構える獣人にとっては珍しくない物だが、必要とする街からすれば、危険な地域に足をの延ばさないと手に入らない素材で、事実上獣人の専売品ということになっている。


「ふぅ……だったらよかった。──俺、近々子供を考えててさ。今回増税されて、さらに自分の子供の分で上がるとなると、みんなに迷惑かけるなと思って」

 なるほど、村では住人みんなが運命共同体のようなものなのか。


「増税さえなけりゃ、我が子一人分の税金くらい稼ぐのはわけないしな。まぁそもそも減税してもらえればもっと助かるんだけど……」


「それは俺の領分じゃないですね、すみません。一応、減税を望んでいるということはギルドに伝えておきます」


「いやいや、ヤマトとは初対面なのに、妙に親近感が沸くというかなんというか、つい甘えちまった……クンクン」

 またクンクンされてる……加護だよなきっと。俺、臭くないよな!?


「それと、さっきの商人の件。よろしく頼む」


「そうでしたね、そういえば、入用な品は何だったんですか?」


「香辛料だよ、そろそろ切れそうで。街に行くのはまだ先だったから、料理を担当する母親連中が、頭抱えてて」


「ペパなら手持ちにありますよ」

 アイテムBOXのスキルで空中に現れた異空間に手を伸ばし、中から"ペパ"の入った袋を取り出す。

 このペパと言う名前の香辛料は、地球の黒胡椒に匂いも見た目もそっくりな、この世界でごく一般的に利用されている、料理の際の必需品だ。


「助かるぜ……ってうわ! なんだそりゃ──ヤマトの魔法か!?」


「そんな所ですね」

 アイテムBOXだが、他に使える者がいないようで、初見の人によく驚かれる。


「いくらだ?」


「この袋には街の相場で銅貨四枚分入っているので、同じ銅貨四枚ですかね」


「助かった~、香辛料の為だけに街に行くなんて勘弁だからなぁ。ここは街じゃないし、手持ちの物を譲ってもらうんだからもう少し払うぜ?」


「俺は商人じゃないんで、儲けは別にいいですよ」

 銅貨4枚と交換にペパの袋を手渡した。


「世話んなったなヤマト、もし街で会ったら飲みにでも行こうぜ」


「こちらこそ、お役位に立ててよかったです。商人の件もギルドに伝えておきます」


 マーウと別れの挨拶をしていると、突然呼び止められた。


「あの! 冒険者さんですよね、助けてください!」

 振り返ると、先程村長と話している様子を観察していた人物がそこにいた。

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