第8話『愛し子』を失った王国
とある王国に『精霊の愛し子』が誕生した。
けれど、王国は『精霊の愛し子』を邪魔者扱いし排除しようと目論んだ。
『精霊の愛し子』は王太子の婚約者でもあったが、王太子は『聖女』という恋人に夢中で『精霊の愛し子』を邪険していた。
悲しみに暮れる『精霊の愛し子』であったが、家族だけは味方であった。
その唯一の味方の助けと精霊王の願いによって、『精霊の愛し子』は精霊世界に行く事になった。
『精霊の愛し子』を失った王国は、不毛の大地になり果てる。
作物は育たない。
水は枯れる。
災害が起こる。
魔獣が活性化する。
疫病が流行る。
ありとあらゆる厄災が訪れたのだ。
王太子はその時になってやっと後悔した。
恋に盲目になったせいで精霊の怒りを買ったと。
王家と神殿は民から非難された。
冒険者達は次々と魔獣に殺された。
民衆からの支持を失ったのは『聖女』も同じ。
王国中が『精霊の愛し子』に赦しを乞うた。
彼らの声は『精霊の愛し子』には届かない。
王国という存在を消え失せるその時まで彼らは懺悔し続けている。
「おかあ様」
「なあに?」
「その王国は結局どうなったの?」
「ふふっ。今も祈っているわ」
「愛し子にごめんなさいって言ってるの?」
「ええ」
「愛し子には聞こえていないのに?」
「ええ」
「どうして?」
「愛し子はとても優しい女性だったから謝れば許してくれると思っているのよ」
「聞こえないのに謝るの?」
「今は聞こえなくても何時かは聞こえるようになる、そう信じているの。聞こえたら愛し子は自分達を助けてくれると信じているのね」
「え~~~。酷い事ばっかりしたのに?」
「それが人間というものよ。それよりも、明日は伯母様が来る日よ。お母様と一緒に伯母様の大好きなお菓子を作りましょうか」
「は~~い!」
パタパタとかけている幼い娘の後ろ姿を見た後、絵本を閉じた。
「どれだけ謝ろうとも私が許さない」
姉は優しいから許してしまうだろう。
私は優しくない
このまま朽ちていくといい。
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