【ブローカー】と呼ばれし小さな男 ~組織のトップが俺に女をたくさん宛がってくるんだけど何で?~

KoP

1章 初めての共同作業

第1話 【ブローカー】のお仕事

「初めまして。【ブローカー】と申します。ある方より依頼を受けましてあなたの……」


「今だ!やつを殺せ!!」


 部屋の中に隠れていた黒装束の人間が4人俺に向かって短剣を投げつけてくる。けど、何の問題もない。


 とりあえず先に飛んできた短剣2本を半身になって躱す。そして次に俺が射線上に右手と左手を置くと、残りの短剣2本は俺の手に当たる寸前に突如軌道を変える。軌道を変えられた短剣のうち1本は黒装束の人間の一人の心臓に刺さり、もう一つの短剣は壁に刺さる。


「ああ、やっぱ2本同時はきついか。というか、俺の挨拶の口上を無視して攻撃するってことは、やっぱり協力する気はないってことだよな。……聞いてたか?」


 俺は誰に話しかけるでもなく宙に向かって最後の言葉を投げかける。


『もちろん!兄様の発言は一言一句聞き逃さないようにしてるからね!』


 頭の中に直接話しかけてくるように返答が返ってくる。……この感覚結構味わってるけど、いまだに気持ち悪くて慣れないんだよなあ。


「毎回発言が危ない気がするんだが、とりあえずCにも伝えてこの屋敷、燃やしてもらって。」


『了解だよ!……我が片割れよ、標的宅を塵も残さず焼却するのだ~!』


 街中でやってる劇の影響でも受けたのか、よくわからない奴のロールプレイングをして遊んでいるB。今は仕事中なんだからまじめにやれ。俺はその間部屋の中を走り回って5人の黒装束の攻撃を必死に避けてるんだぞ!……少し腹立ってきたな。


『発射5秒前~!3、2、1、あ、『大炎海』の方ね!』


 おいこらちょっと待て!予定では『流星群』で行くことになってただろ!Cもふざけやがったのか!ほんとお前ら大概にしろよ!っていうか知ってたならBも早く教えろよ!俺の【反射】は、ってうおぉ!もう来てんじゃねえか!!


「……うん?なんか気温が一気に上がってないか?おい貴様、これもお前の仕業か⁉」


 この屋敷の主がそんなことを聞いてきたが、それに答えている余裕は俺にはない。自分の技の調整の方で忙しいんだよ。誰かさんのせいでな!!


『そろそろ着弾しま~す!10秒前~!8、7、6』



―――ドガーーーン



 着弾する前に屋敷が倒壊する。上空からゆっくり迫りくる太陽のような『火球』の熱に、木製の屋敷は耐えられなかったようだ。


『5、4』


 屋敷が倒壊し2階にいた俺たちは足場を失う。すると当然、部屋の中にいた生存者である7人が宙に投げ出され、燃え盛る1階の床に叩きつけられることになる。


『3、2』


 カウントダウンは止まらない。現在の屋敷の温度は数百度くらいだろうか。男たちの髪の毛も服装もすべてが燃えている。そんな男たちは俺のことなんて無視して、燃えながらも必死に外に出ようとしている。


『1、着弾!』


 俺が無傷で屋敷から脱出した瞬間、屋敷に太陽のように大きく高温の『火球』が落ちてくる。大きな火の球は屋敷を飲み込むと、地面の中に吸い込まれるかのように沈んでいく。


後に残ったのはいくつかの人間の焼死体とほとんどが灰となってしまった屋敷の残骸のみ。砕け散ったガラスは、まだ少し燃えている火の明かりと、優しく降り注いでいた月明かりをキラキラと反射させていた。


『おっつかれさま~!』


 頭の中に直接話しかけるように明るく労いの言葉をかけてきたのは、Bと先ほどまで呼んでいた少女。


「兄様、お疲れさまでした。あの炎の中から無傷で生還するとはさすが兄様です。それにそれに。『流星群』の予定を急遽『大炎海』に変えたのに瞬時に対応できたところはさすが兄様だと思います。それから5人からの攻撃を前に大立ち回りを演じていたところも素敵でした。さすが兄様としか言いようがありません。今日はよく頑張りましたね。いいこいいこしてあげます。いいこ、いいこ。」


 駆け足で寄って来て早口でまくし立てるように話しかけてくる少女は、先ほどまでCと呼んでいた少女。少女とは言ったが身長は俺より頭一つ分大きく、傍から見たら俺の方が幼く見えるだろう。だから、そんな少女に頭を撫でられると複雑な気持ちになるのだ。というか、やめろ!


「やめろ!俺はお前らより3つ年上なんだぞ。小さいからってそんな扱いするんじゃない!」


「別にいいじゃないですか。兄様もまんざらでもない顔してるじゃないですか。」


「してねえよ。そんなこと言うんだったら明日の朝食作ってやんねえからな!」


「またまたあ。そんなことおっしゃっても私は騙されませんよ。先日も兄様は賭場で美人なお姉さんによしよしされながら幸せそうに眠ってたそうじゃないですか。ということは、やっぱり撫でられるの好きなんじゃないですか。ほら、ご自覚なさった方がよろしいですよ?」


「ち、違うっ!あれは事故というか、その、なんだ。と、とにかく!そんなんじゃねえんだよ!……はあ。もう疲れたよ、いろんな意味で。とりあえず次行くぞ。」


「了解です兄様。私と手を繋いで一緒に……ってなんでそんないやそうな顔するんですか?クロエさんとは仲良くするのに、私とは仲良くしてくれないんですか?あーあ、クロエさんに言いつけ『ああ!分かったよ!手を繋ぎゃいいんだろ!』……はいいい子ですね。さ、次行きましょう。」


 首から下げていた透明な宝石がついたネックレスに触れて、纏っていた赤いオーラを解除した後、こいつと仲良く手を繋ぐ。……もしかして急遽こいつらが予定を変更したのは、この前のことをまだ根に持ってたからなのか⁉……はああ。


「あれは俺が悪いんじゃなくてクロエが……」


「はいはい。ああだこうだ言ってないで次行きますよ。」


 ああああもう!!どうしてこうなった⁉




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