第44話 マイナス

“ピチチチチッ…”




外のスズメが鳴いている声が聞こえてくる。




何度電話しても、何度ラインしても既読にもならないし連絡がなかった。




何があったの?




事故にでもあったの…?




心配で一睡もできなかった…




「イタッ…」




下腹部に痛みが走りトイレに美優は走り出した。




「これ…」




便器の中は真っ赤になっていた…




おなかの痛みを絶えながら、ヒロに電話してみた。




「ヒロ…ごめんッ…病院に送ってほしいッ」




「美優!?わかった、わかったから、そのまま待っててすぐ行くから!」




お腹の痛みがピークでトイレで蹲って動けなくなってしまった…








「化学的流産ですね。」









「化学的……流産?」




「エコーでみる限り綺麗になっているので、手術とかは必要ありません。少し出血が多くなる場合もありますが、いつもの生理とあまりに違う場合はまた受診してください。」




「赤ちゃん…いたんですか?」




「…着床が続かなかったという方はたくさんいます。無事に妊娠できる方は20%程度なんです。ほとんどの方が生理がきたと思って気づいていません。ただ―」




「ただ…?」




「カルテをみると以前にも妊娠されているようですね?」




「あ…はい。」





「カルテを見ると――」





「………え?」




ショックで先生の話がだんだん頭に入らなくなっていった――





「それってッ…」





「大丈夫ですよ…大丈夫。」




そういって先生は美優の背中を擦ってくれた。





先生に擦ってもらうのもうれしかったけど、でも――










巧に大丈夫だよって一番にいってほしかった――









“ガララララッ…”




「美優….」




ヒロは診察室に入らず廊下で待っていた。




「…ッ」




どうだった?と聞きたかったが、美優の顔をみれば言わなくてもわかった。




「行こう…」




車に乗せて家まで送っていくと、美優の家の前には報道陣でいっぱいだった。




「なんだ、コレ…あ、美優!」




巧に何かあったのかもしれないーー




その一心でヒロの車から飛び出し報道陣の中に飛び込んだ。




「美優さんですよね!今回の件どう思われますか?」

「一応戸籍上は妻なんですよね?」

「巧さんともう話されましたか?」




「あ、あの!巧に何があったんですか!?教えてください!」




報道陣の一人がiPadを見せてきた。




そこには日向巧が強姦!?妻とは離婚危機!?と書かれたタイトルにボロボロになった沙織はと巧が写っていたーー




「これは…」




「昨日の夜らしいのですが、昨日は巧さんと一緒でしたか!?」













「昨日の夜……?」













昨日の夜は…




巧に一番そばにいてほしくて




今朝だって背中擦ってほしくて――




会う約束をしていたのに…




なのに巧は来てくれなかった――









『前回手術で開腹した際に子宮の形が妊娠しにくい形とカルテに残されています――』









医者に言われた言葉の一部を思い出す…




家族がほしい巧に二度も父親にさせてあげれなくて




さらに子供は難しいかもって言われた時に…




どうして沙織さんと――?




「美優!どこに行くんだよ!美優!!」




美優はとにかくここから逃げ出したくて走り出した。




どこに向かっているかは自分でもわからない。




どこでもいい――




今の現実から逃げ出したい…




「彼女を追え!」




マスコミたちが一斉に走り出した。




“キキキィッ…”




ヒロが車でマスコミを足止めし車から降りてきた。




「彼女は一般人なので、僕が代わりに答えますから…」




「弟さん…巧と連絡はとりましたか?」

「この写真の彼女の名前は?」

「二人の関係知っていますか?」




ヒロに質問が集中し、美優はうまく逃げ出せた。




もう何もかもいや…




どこか遠くへ…遠くへいきたい…




どうしてこんな辛い思いばかり…




美優の精神状態は流産のことも重なりいっぱいいっぱいになっていた――




「美優!?」




愛が美優の家にやってきた。




「愛…どうして…」




「ニュース見て…ヒロ、美優はどこ?」




「わからない…さっきまで一緒で病院に行ってきたんだ…帰ってきたら家の前にマスコミがいて囲まれて…逃げ出してそのまま…」




「病院…?」




「…化学的流産だって…」




「そんな…美優ッ…」




美優のことを思うと愛は涙が止まらなくなった…




「…グスッ…連絡しても繋がらないし、心配できたんだけど…巧君のとこかな?」




「…その可能性は低いかな…そっか愛のところでもないのか…」




「じゃあ、ヒロのとこ?」




「…可能性低いけど家に帰ってみる。」




「私ここに残るから。」




ヒロが立ち上がり家に戻ろうとすると




「美優!!!」




「兄さん…」




「巧君!?」




「美優は!?」




「兄さん、何やってるんだよ!!」




「ヒロ…どいて!」




“パンッ…”




愛が巧に思いっきり平手打ちをした。




「…ッ」




「痛い!?でも美優はもっと痛いよ…美優が芸能人と結婚したって聞いて不安だった。いつかこうなりそうで…あのクリスマスだってそう!昨日だってどんな思いで待ってたと思う!?」




「…」




巧は返す言葉が本当になかった…




「一番そばにいてほしい時にいてくれなくて、しかも沙織さんとあんな…何が恋してもらうよ!信頼できないのに恋できるわけないじゃない!」




「愛…」




泣きじゃくる愛の肩をヒロが支えた。




「兄さん…俺は兄さんがあんなことするって思ってない。だけど何で連絡してくれなかったの?」



「携帯車の中におきっぱなしで…でも一度美優の家に来たんだから、そのとき一言言えば…完全に俺が悪いんだ。」




「わかった…とりあえず美優を探そう。兄さん心当たりないの?」




「……」




「大学…でもマスコミいそうだしな~マスコミがわからないような…」




“チャリッ…”




巧は車のキーを握って外に出て行ってしまった。




「どこに行くの!?あてあるの!?」









「海!!!」



















――そう、始まりと終わりの海・・・


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