ショタパン!【ショタのスチームパンク恋愛喜劇】

カオス饅頭

1-1  次期領主のアダマス少年

第1話 恋をしたいお年頃。だって男の子なんだもん。

冒頭漫画 https://kakuyomu.jp/users/1sa/news/16817330658984586065


 昔から内向的で、自分の得意な環境でしか強く出れなかった。

 観察するように人をジト目で見てしまう癖が治らなくて、結局嫌な印象を与えてしまう。

 そんなイヤな奴がボクという子供だった。



 ボクの視線の先には窓がある。


 形式は台形の立体構造をした広い出窓で、上の枠はアーチ型。上下に開くそれはヴィクトリアン・スタイルと呼ばれる最近の流行りらしい。

 中に入る太陽の光は頬に当たると温かみを感じさせ、大切なあの娘(こ)とのひと時を有意義にしてくれるだろう。


 と、宣伝文句でも付けるならそんなものか。

 何気なしに窓を眺めてそんな事を考えていたら、一言の呟きが漏れていた。

 

「あ〜、彼女欲しい」


 窓は呟きに応える訳ではないが、雄大な湖の広がる風景を見渡せた。

 湖の名は『大真珠湖』。

 我らが『ピコピコ=リンリン王国』最大の湖であり、ボクが今居る、この『ラッキーダスト侯爵領』の中心に位置して領民達の生活を支えている。


 名前の由来は諸説あるものの、観光客向けには「純粋に大きな真珠に見えるから」で通っている。

 ボクが今居る、この部屋のように高い位置から見ると湖は全体的に丸い形をしているのが分かる。

 そして水面が太陽光に反射すると、真珠のように神秘的な白みを帯びるのである。

 他の説だと王国が海神信仰なので宗教的な説もあるけど、そこら辺は面倒くさいので省略。


 王国でも有数のデートスポットとしても知られており、運営する側にとっては収益が良いのがポイントだった。


 有り難いといえばありがたいが、彼女なしで目の前にそんなものがあるならばついつい勢いで呟きたくなるものだろう。

 つまりは浜辺の石ころを投げて青い海のバカヤロー的なアレだ。


 さて。

 そんなボクの右手には、キャップを閉じた万年筆が握られている。

 キャップのクリップ部の根元には、『真珠を抱く騎士』といった風変わりな紋章が飾られていた。


 もしも胸ポケットに万年筆を入れてクリップで留めれば、向き合った相手に対して紋章を見せるよう、設計されている。

 そんな重要なポジションに置かれる紋章の正体は、恐れ多くも我が領主家の紋章である。

 紋章の下からは、クリップの先端に延びる形でボクの名前が刻まれている。


 と、いう訳で自己紹介をしようか。

 ボクは『ラッキーダスト侯爵家』の嫡男にして次期当主【アダマス・フォン・ラッキーダスト】。

 残り数年で、今見下ろしている広大な侯爵領を治める者だ。


 歳は思春期真っ盛りの十二歳。

 あんな一言が飛び出すのも仕方がないよね。


 とはいえ物心ついた頃から一通りのマナー講習や、領地運営の実技として父上の雑用。他にも護身術など上流階級のエリート教育を受けてきた。

 寧ろ貴族社会においては立派な結婚適齢期ともいえるだろう。


 そうした育ちの為、実のところ、あてがわれる的な意味で女性経験には……身も蓋もない言い方をすればスケベな事には困っていない。寧ろ大好きだ。


 だけど、女に困っていない事と結婚や色恋沙汰とは、また別なんだ。

 ボクは大衆が味わうような恋愛にはサッパリな訳で、未だ見ぬ……もしかしたら一生味わう事の無いであろう経験にはロマンス小説なんかを基に想いを馳せるしかない。


 デートをするならどうしたシチュエーションだろう。

 どういった女性と付き合うのだろう。

 ムラムラと右手首が動き、万年筆のキャップの先端は宙へサラサラと理想の嫁を描き出す。


 この時、少なくともボクの顔は雑用の仕事などよりはずっと真剣だったと言っておこう。

 集中し過ぎて、他人が聞いていたら恥ずかしさで爆発しそうな言葉を紡いでいた程だ。


「ちょっと歳下が良いな。

髪型は長くて綺麗な金髪を、ツインテールの縦ロールにしたデコッパチ。

目の形はクリクリした大きめのアーモンドアイ。瞳の色はんーっと、青色かな。なんとなく」


 ボクが内向的な性格だから、活発な娘(こ)が良いなあ。

 ポヤポヤとした妄想は膨張を止めない。虚空を描く速度は益々上がってゆく。


「口元は、笑うと可愛らしい八重歯がチラリと見えていたら良いかなぁ。

そんで好奇心旺盛な猫みたいな性格をしていて、走る度にツインテがフリフリと揺れ……ん?」


 途端、ボクの手がピタリと宙に描く事を止めた。

 何故なら宙に描いていた理想の美少女が、そのままボクの目の前に立っていたのだから。

 服装を設定した覚えはないのだが、薄ピンクのフリフリドレスである。


 ただし好奇心がありそうな顔付きとは裏腹に、表情は困り顔だった。眉をハの字にして、閉じたままの口をムズムズと動かす。

 まるで、どうすれば良いのか分からないようだった。


「ちょっと仕事し過ぎたかな、変な幻が見える」


 ポカンとしつつ、ボクは目元をゴシゴシと擦った。ノックも無しに次期領主の部屋に入るなんておかしいしな。

 間諜などの可能性も捨て切れないが、それにしては不用心過ぎる。


 ならば幻なのだろう。いや、そうであるべきだ。そうであってくれ。

 しかし幾ら目元を擦れども目の前の幻は消える事はない。


 いつの間に近付いたのやら。幻は不安そうにボクの顔を覗き込んでいた。

 普段なら見ず知らずのお嬢様にそんな事はしない。

 だがまあ、幻なら良いだろうと左手を伸ばして、頭を撫でる。


 幻は少しビクリとしたが、ゆっくりと受け入れた。

 体温が手の平に伝わってくる。


 そんな事をしている最中に余計な声が入ってきたのは、その心地よい感触に心奪われていた時だった。


「チャオ。早速仲良くなったようで何よりだね、アダマス」

「その声は!」


 ガチャリと、細い真鍮製のモールディングで飾られた四枚板の扉が開いた。

 オッサンの生首がニョキリと横から生えてくる。

 勿論、正確には生首ではなく、出入り口から顔だけ覗いただけだ。

 分かっていても心臓に悪い。


「なにやっているんですか、父上」

「おや、俺の事は幻とは言わんのな」

「そうであって欲しいですけど、父上が関わる時はだいたい悪い時の予感の方が当たりますから」

「信用ないなー、俺」

「信用がないという点においては信用してますとも」


 ボクが溜息を付くと、その間に父上はフンと鼻を鳴らした。

 そしてニュッと身体を伸ばし、そして脚を部屋に入れて全身を見せる。

 身体付きにはヒョロリとした印象があるが、あくまで背が高いからであって、パーツで見ると結構鍛えられている事が伺える。


 そんなボクの父上……【オルゴート・フォン・ラッキーダスト】侯爵は、やや下唇に力を込めて此方を観察する。

 なんだかもどかしそうなので後押ししてやる事にした。


「なにか悩んでます?」

「この子が幻でないと知ったら、久しぶりに己の恥ずかしい発言に爆発するアダマスが見れると思ったんだけどね」


 父上は美少女の肩をポンと叩く。


「恥ずかしくない訳ではないです。

しかし、このくらいの悪戯なら父上なら何時も通りかなと。

どうせ紹介しようと部屋に入れようとしたら面白そうな独り言が聞こえたかと、思い付きで態々『ドアをノックせずに入れ』とでも言いやがったとかじゃないですかね」


 ボクの淡々とした口調に対し、父上は両手を開いて驚いたフリをした。


「おやま、まるで見てきたかのように正確だ。

息子の成長が見れて父さんは嬉しいぞ」


「やっぱですか。

で、結局この娘は何なのです。

新人メイドにしてはドレスの質が良すぎますし、婚約者でも見つけて来てくれたので?」


 ボクは美少女をペンの先端で差して聞くと、今度こそ父上は面白そうに答えた。


「ああ、そうだった。この娘な。

喜べ、お前に妹が出来たぞ」

「……はぁ?」


 ボクらに挟まれた美少女は、居心地が悪そうに両手でスカートを摘まんでは、モジモジと布地を擦り合わせて落ち着かない素振りを見せていた。


https://kakuyomu.jp/users/1sa/news/16817330648265816324

お絵描き。アダマス

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