第17話 小平奈緒と秦李京香
「鮫島ガブこと“秦李京香”(はたり きょうか)よ! こっちこそよろしくな!!」
第一印象はめっちゃアネキって感じだ。
「それじゃ打ち合わせを始めましょ〜か〜」
「その語尾口調なんか落ち着くよ」
「ありがとうございます〜」
初めは初めての職場という向井くんの警戒心を解くため始めた口調でしたね。我ながら安直な行動でしたがこれがかなりはまって……いけない、仕事に集中しないと。
「今回秦李さんのマネージャーとなったのですが〜こちらからいうことはありません〜。秦李さんのやりたいように配信してくださ〜い。秦李さんのサポートはしっかり致しますのでそこはご心配なさらず〜」
やっぱり私は俗にいう“放任主義”でやっていこうと思う。配信者側にはストレスなくやりたいことをやって楽しんでもらうのが仕事だ。現に一期生の中では一番チャンネル登録者が多かった向井くん。
だからこそ思う。こちらから強制的に縛るのは私の考えとあっていない。
「本当か!? 他の配信者とか見てマシュマロ配信とかしてみたかったんだけど、『マシュマロは匿名で送られてくるから下品な内容も送られてきます! それに応えていくのはあなたのキャラと合ってない!!』って田中さんに言われたことあるんだけど……」
用意されている長机に手をつき身を乗り出す秦李さん。これがいわゆるガチ恋距離というやつですね……確かに好きな人にこの距離は破壊的ですね。
説明しよう! マシュマロ配信とはマシュマロというサイトを使って配信するというそのまんまのやつだ!
はっはっはっ〜マシュマロのことが知りたいって? しゃーないしだ!
マシュマロは匿名で相手にメッセージを送れるサイトだ。匿名により安心して配信者などに悩みを打ち明けられたりするぞ! みんなも送ってみよう!!
「いいですね〜マシュマロ配信! そういう嫌がらせなどの内容はこちらと相談しながら〜公開するマシュマロを事前に決めてしましょ〜!」
「ありがとう!! 他にもこんなことしてみたいんだ!! 言っていいか?」
「是非是非〜! そのための打ち合わせなので〜」
そしてその後も秦李さんのやりたいことを聞きながらそれに対しての私のバッグアップの仕方などを入念に話し合った。いい方で本当によかったです。
****
打ち合わせも終盤。秦李さんももうやりたいことなどは全て聞いた。もう話し合うことはないかな。
「それでは最後に今後の目標をおねがいします〜」
「そうだな……目標か……」
彼女はいいねの形をつくりその親指でめっちゃ自分の頭を叩いてる。
ま、そうだよね。いきなりこういう場で目標って結構ある流れだけど案外出てこないよね。向井くんもそんな感じで『とりあえず楽しみます!!』って言ってたっけ笑
「ん〜単純だけど、有名になって人気者になる! やっぱりこれでしょ!!」
なんか彼女らしい答えだ。どこまでも突っ走っていきそうだ。
「んじゃ、次小平さんはどうだ?」
「わ、わたし〜!?」
いきなりはひどい! さっきも言ったけどこういう場に限って出てこないのよ〜!
ん〜けどマネージャーとしては秦李さんを押す形が適切かな。
「わたしは〜鮫島カブが人気になるために後押しするだけですよ〜」
「ダウト」
へぇ?
「私こういうのわかるんだ。人の奥にある思い? 的な。小平さんなにか思い殺してるでしょ?」
「な、なんのことでしょ〜汗」
「呆けても無駄だよ。なにか押し殺してる未練があるなら話してみて? 一応今日からパートナーになるわけだしな」
押し殺してる未練……そんなの秦李さんに言われるまでもなか分かっている。
“向井くんのことだ”
彼がこの会社から去る時の顔が今でも蘇る。毎日楽しそうにしていた彼があんな顔をするなんて信じられないを通り越して“恐怖”だった。
けどこんなん話しても……今は関係ないんだ……
「だ、だいじょ……」
バチン
返答をする途中、頬に激痛が走る。その正体は秦李京香だ。
「そんな顔をして大丈夫なんて一生口にするな! 口で欺こうとしても小平さんの心は欺こうとしてないぞ!!」
一瞬何を言ってるのかわからなかった。けど彼女の言っていることが自分の顔を窓から見て分かる。
「あ、あれ? わたし……こんな顔してるの?」
すごい顔だ。追い詰められている。切迫。そんな単語が当てはまる表情だ。
わたし……向井くんの配信引退……かなり応えてるかも。
「小平さんのその緩やかな口調も動揺してるのを隠すためなんじゃないのか?」
何も言いかえせない。相手は向井くんじゃない。やる必要ないのに思いを隠すために平常心を装うためにしていたのかもしれない。
「抱え込まないで。初対面かもしれないけどさ、力にはなれるよ? ほら、言ってみ」
「…………」
このまま抱え込むこともできた。けど、わたしには限界だ。とっくに折れても仕方ない小さなメンタルだ。さっきまでは向井くんの存在でがんばれた。
けどその向井くんが私の未練と気づいてしまった。
もう限界だ。
「実は……」
私は秦李さんに抱え込んだ全てを伝えた。
****
「そっか……向井くん。同じ一期生として一番楽しそうに配信してたから陰ながら応援してたんだ。当然、コラボ配信の時も見てたけど……そんなことになってたなんて」
まだ向井くんが辞めたのは公開されていない。なので当然彼女も知らないわけだ。
「全てを伝えた上でありのままの私の気持ちを言います。正直あなたを絶対人気にさせるなんてあまり思っていません」
「お、おう……はっきり言うな……」
「けど仕事だし! あなたのマネージャーなのでしっかりサポートはします! だからそこは安心してください!!」
「お、おう!!」
「それで、目標聞きましたよね? 改めて言います! 私の目標は向井くんを絶望に追い詰めた奴らに復讐したい!」
「こ、殺すとかはダメだぞ?」
「もちろん! やるとしたら社会的にです!!」
「えぐいね……」
向井くんはらしくないっていうかもしれませんね。けど私の思いはこれです。
また狡噛レンとして向井くんが配信してる姿を見たいんです!!
そのためなら……どんな手段でも……
「……それならさ! 私たち利害一致してると思うんだよね!」
「? どういうことですか?」
「私は人気になりたい。人気になったら自然といろんなところとコラボできるよね?」
「そうですね。向井くんもプチ人気になってコラボしましたし」
そして最爽とかいう毒魚が釣れてしまったわけですが……
「だからさ、私が人気になったら……最爽エリー釣れるよ? 復讐とか考えてるならいけるくね?」
「!?」
確かに! 真実を世間に知らせるなら、彼女に復讐することが一番の近道!
「さっきの打ち合わせでもいろいろ親身になってくれたし、これからも相談乗ってくれそう。だから小平さんがいれば私はもっと人気になれる!」
「あなたが人気になれば私は復讐できるかもしれない……確かに利害一致ね」
「あなたが復讐するなら手伝う。同期をつぶされて平気な私じゃないからね。そのかわり私が有名になるために力貸してな」
「契約成立ね」
こうしてお互いの利害が一致した彼女らは結託する。
向井の知らないところで復讐の炎が灯った。
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次は向井視点です。
小平さん頑張れ〜社会に負けるなー
10K視聴されました!! 小説フォローも250超えました!! いいねも100超えてました!! 感激で涙が止まらね……本当にありがとうございます!!
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