捕虜の立候補
どうも。エルタニア皇国軍サン=マルケス要塞司令官、ベルトラン=シドニアです。
カサンドラ准尉の配属以来、一年振りにサラス少尉とサモラーノ三等書記官という二人の優秀な人材を迎え入れ、サン=マルケス要塞での仕事は格段に減る……なんてことはなく、何故か書類の山はむしろ増える一方。
どうやら、カサンドラ准尉が余計に僕の仕事を増やして追い込んでいるみたいだ。こんなの、完全にハラスメントだろ。
当然、この僕がそれに耐えられるはずもなく、やはり将軍職を辞する以外、自分の身を守る手段はないと改めて結論に至った。
なので。
「しばらく捕虜として厄介になるぞ」
「ふざけるな! なにが『捕虜として』だ!」
僕の言葉に、青筋を立てながら激怒する目の前の青年将校。
彼の名は“タイラン=レヴニ”
「大体、俺達は敵国同士なんだぞ! なんでこの砦で涼しい顔をしながらアイラン(ヨーグルトの飲み物)を飲んでやがるんだよ! そして“イルハン”! こんな奴に出してやるな!」
僕だけに飽き足らず、タイラン将軍は部下で側近のイルハン千人長殿を指差しながら怒鳴った。
「まあまあ、そんなに怒ってばかりいると、部下の心も離れてしまうぞ?」
「誰のせいだと思ってるんだ!?」
などとタイラン
ふむ……誰のせいだというんだろう?
「アハハ……私でしたら大丈夫ですよ。それより、カサンドラ殿が怒っていらっしゃるのではないですか?」
「まあ、怒っているだろうなあ」
「なおさら帰れよ! じゃなきゃ、コッチがとばっちりを受けるんだよ!」
澄ました表情で告げる僕に、タイラン
「とにかく、こうして僕を捕虜にすれば、タイラン
「なるわけないだろう! せっかくこうして
「オイオイ、どの口が言うんだよ。二か月前に攻撃を仕掛けてきたくせに」
「あ、あれは俺のせいじゃねえよ……王都にいる馬鹿が軍勢引き連れてやって来て、勝手に攻め込みやがったんだ」
吐き捨てるように言うと、タイラン
まあ、元々彼があんな真似をするとは思っていなかったけど、少なくともタワイフ王国としては
「物量も兵の数もほぼ互角の状態で、国境の上から下まで戦端が開かれたらいずれ疲弊しまくって、それこそ東の隣にある大国、“オルレアン帝国”に蹂躙されてしまうんじゃないのか?」
「分かってる! だけど王都の連中は、エルタニアとの早期決着に意地になっちまってるんだよ……っ」
机を思いきり叩き、タイラン
元々、タワイフ王国が戦争を仕掛けたのは、エルタニア皇国を併合してオルレアン帝国に対抗するため。
今のままでは、オルレアン帝国との戦力差が少なくとも五倍以上あるからなあ。
だけど、うちとの戦争だって既に十年も続いているし、どう頑張っても早期決着なんてできるわけがない。
それどころか、僕には自らの手で破滅の道に進んでるようにしか思えない。
まあ、そんなことは切れ者のタイラン
「すると、今後はタイラン
「分からん……今までどおり、ただのポーズで通用すればいいんだが……」
そう言って、タイラン
どうやら彼も、その王都の連中とやらを抑えることはできないっぽいな。
「……僕としては、タイラン
「俺だって嫌だぜ。下手に仕掛けて全滅なんてしたくない」
「「ハア……」」
タイラン
僕達は、揃って溜息を吐いた。
「まあいい。それで、お前の
「まさか。僕の目的は将軍を辞めて楽隠居することだよ」
「つーか、まだそんなこと言ってんのかよ……俺としては、そのほうが楽で助かるんだけど」
僕の言葉を信じてないらしく、タイラン
「アハハ……ですがカサンドラさんがいらっしゃる限り、ベルトラン将軍がそんなことをするようには思えませんけど」
「いやいや、イルハン千人長。なんでそこでカサンドラ准尉が出てくるの?」
「さあ、どうしてでしょう」
クスクスと笑うイルハン千人長を見て、僕は首を傾げる。
「とりあえず、タイラン
「「っ!?」」
そう告げた瞬間、二人が息を呑んだ。
イルハン千人長に至っては、腰のシャムシールに手をかけるが、それに気づいたタイラン
そして。
「……この国境南部で戦端を開こうと画策しているのは、タワイフ王国内務大臣……“ミハイル=タラート”だ」
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