異世界転移したんだが「からあげ」が食べたくてダンジョン前で弁当屋をはじめたら大繁盛した。

kattern

第一部 異世界からあげ繁盛記

異世界転移して追放される奴とかおりゅ?

「ジェロ、アンタ明日からもう来なくていいから」


 ダンジョン三階のセーフティーゾーン。

 パーティーリーダーの「チョコ・ブラウニー」は、鍋の前に座り込んで昼食準備をしている俺にぶしつけに言った。


 紫色をしたツインテールにつり上がり気味の細い眉。

 つり目がちな瞳に、尖った小さなピンクの唇。

 ツンデレ魔法使いは今日もゴキゲンナナメだ。


 黒いローブをはためかせると、小柄な魔法使いが俺に指を突きつける。

 身体のラインが浮き上がったソフトレザーのメイル(レオタードタイプ)が、ローブの端から見えて――ちょっぴりエッチかった。


 うーん。


「マジで言ってんの?」


「そうよ、アンタはクビ!」


「女所帯の冒険者パーティーなのに?」


「そういう『男手だから捨てられるわけない!』って思い上がりがムカつくの!」


「いや、事実だろ……」


 俺が所属している冒険者パーティーは女所帯。

 避け主体の女戦士に、投げナイフ使いの女狩人、低レベルの女回復術士、そして女魔法使いのチョコという構成だ。戦闘はできるが荷物運びや力仕事ができない。


 俺がいなくなったら困るだろ――?


 チョコの背後のパーティーメンバーに助けを求める。

 食事の準備が終わるのを待っていた彼女たちは「うんうん」と頷いた。


 リーダー以外はちゃんとパーティーの現状を分かっている。

 むしろ、なんでリーダーなのにこんなことを言い出すのか。


 意味が分からない。


「チョコが荷物を運ぶのか? 重たいぞ?」


「魔法を使えばなんてことないわよ!」


「戦闘のために魔力は残しておけ」


「そ、そうだけれど!」


「ラスク(女戦士)は軽戦士だから動きを阻害する荷物持ちは無理。クリーム(女狩人)も。ジャム(女回復術士)はドワーフだけど……」


 ちらりと俺が回復術士に目配せ。


「ドワーフがみんな丈夫だと思うな! 華奢なドワーフだっているんだ!」


 彼女は荷物持ちをきっぱり拒否した。


 とにかく、俺を追放するメリットがこのパーティーにはない。

 得意げに追放宣言したチョコだったが、理路整然と言い返すと「ぐぬぬ!」と唸って押し黙る。透明な汗がチョコの額を走り、ブーツの先が地面をなじった。


 ここで「はい論破」とやめておけばよかった。


「どうしたんだよチョコ? 俺に不満でもあるのか?」


 俺は妙に正義感をふりかざしてしまった。

 理不尽なパワハラを受けるのが嫌で、問い詰めてしまったのだ。


「……不満? そう、不満よ!」


「俺、何かしたっけ?」


「それは何も……」


「じゃあ、何が不満なんだよ?」


「……他のメンバーと仲良くするから」


「あん?」


 急に小声になったせいでよく聞こえなかった。

 聞き返そうとしたが、それより先にチョコの癇癪が爆発する。

 彼女は地団駄を踏むと俺に向かってスタッフを構えた。


「うるさい! うるさい! うるさい! とにかく、アンタはクビなのよ!」


 無茶苦茶だ。

 こんな理不尽なパーティー追放あります?


 立ち上がって止めようとした俺にチョコがブーツの底を向ける。

 だが、そこは運動能力に劣る魔法使い。


 彼女が蹴ったのはパーティーの荷物持ちではなく、「昼食の鍋」の方だった。携帯用の小さな鍋が激しくゆれて中身がぶちまかれる。


 たき火が汁を浴びて灰色の煙を上げる。

 代わりに俺の中で怒りの炎が燃え上がった。


「何するんだよチョコ!」


「あ、いや、その」


「ダンジョンの内での食事がどれだけ貴重か分かってるのか!」


「わ……わざとじゃないもん!」


「わざとじゃなかったら何をやってもいいのかよ! 俺をバカにするのはいい! けどな、こんな飯でも飯は飯なんだ! 粗末にしたらダメだろ!」


 チョコは見た目はガキだが中身は大人だ。

 最近は情緒不安定だが分かってくれると思っていた。


 なのに、今日のチョコは「何か」が違った――。


「ア……アンタの料理なんてまずくて食べられないのよ!」


「なんだと!」


「私がどれだけ我慢して食べていたと思ってるの!」


「豆のスープなんて誰が作ったって味は変わらないだろ!」


「うるさい! うるさい! とにかくうるさい! もうアンタが作った『ゲロを煮詰

めたようなお昼ご飯』なんて食べたくないのよ!」


「……お前、いい加減にしろよ!」


 分からずやのチョコに俺も自分を見失っていた。

 小柄なツンデレ魔法使いの前に立って俺は彼女を見下ろしてにらみ据える。

 真っ向からにらみ返してくるチョコ。


 その瞳には涙が滲んでいた。

 なんでそんな顔して突っかかってくるんだよ。


 お前が何を考えてるのか、もう分かんねえよ――。


 女リーダーの涙顔に俺の中で何かがキレた。


「分かったよ」


「なにが分かったのよ?」


「このパーティーを抜ける。冒険者もやめる。それで満足するんだろ、チョコ?」


 俺はパーティー追放を受け入れた。


 俺が言うことを聞いたというのに、チョコは驚いた顔をしていた。

 まるで夢に見そうな「取り返しのつかないことをしてしまった」という顔を。


「……アンタがこれからどうするのか楽しみだわ。転移者さん」


「あぁそうかよ」


「……惨めに土下座して許しを請うなら家政夫として雇ってあげてもいいけど?」


「そんなことするくらいなら死んだ方がましだ」


「……あっそ! 行くわよみんな! そんな奴、もう放っておきましょう!」


 こうして俺――ジェロこと異世界転移者の坂次郎は、転移先の剣と魔法のファンタジーの世界で冒険者パーティーを追放された。


 異世界転移して追放される奴とかおりゅ?

 転移と共にサクセス&ハーレムストーリーがはじまるもんじゃんよ。


 けど、ゲーム転生じゃないから知識チートができないんだな。

 そもそも女神から転移特典チートももらってない。

 現代人だから冒険者になっても荷物持ちくらいしかできない。


 当然の追放なのかもしれない。


 いや、もう一つできることがあった――。

 食事の準備だ。


 鍋の中身に残っている一人分の食事に手をつける。

 木製のスプーンで鍋の底をすくうと口に運んだ。


「…………まっず」


 乾燥豆と乾燥肉を牛乳で煮たスープ。

 この世界ではごく一般的なダンジョン内での食事だが、お世辞にもそれは美味しいとは言えなかった。栄養補給最優先。チョコがキレるのも納得の味だ。


 けど、仕方がないじゃない。

 この世界にはお弁当とか携帯食とかそういう文化がないんだから。元の世界のように「コンビニ・弁当屋で好きなお弁当を買う」ことができないんだから――。


「待てよ?」


 その時、俺は閃いた。


「もしかして、この世界で弁当を売ったら大儲けできるんじゃねぇ?」


 知識もチートも運もない俺は転移一年目にしてようやく気づいた。

 異世界転移チートハーレム物語に大事な「思いがけないアイデア」に。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 この「メスガキ魔法使い」に「ざまぁ!」して、奴隷としてコキ使いたい――という方は、評価・フォローよろしくお願いします。

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