第13話 ジルとシルバラのトランス王国視察

 俺とシルバラは、7才になりました。

 そろそろナルト王国に行く時期になったのですが、トランス王国の王城から使者がやって来て、各地で研修者が戻って、領地開拓を始めたはずなのに、成果が上がらず困っている。

 ついては、各地を視察して指導してほしいとの要請です。見返りに父さまを子爵に昇爵させるそうです。

 父さまに呼ばれて、使者の前でどうかと聞かれたました。


「お使者様、各領地は風土も気候も違います。 

 各々の領地で土地にあった開拓をしなければなりません。それは各領地で試行錯誤をして、成し遂げることです。

 また、各領主の指導などは国の仕事です。

 王城の仕事を男爵の息子ごときに命じるなど言語道断。担当大臣達を首にして、父さまを、大臣にするなら考えても良いです。」


「なっ、なんとっ。しかし正論ですな。王城に戻り陛下に申し伝えます。」


 その後も何度も断ったのだが、陛下から粘っこく依頼がなされ、父さまを候爵に、俺を宰相補佐にするとまで言われて仕方なく決着した。

 たぶん、王国全土となれば何年も掛るだろうし、それを6才の子どもにやらせるなどとは、トランス王国の貴族達は、正気なのだろうか。




✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢



 トランス王国の王城にやって来た。俺とシルバラは、謁見の間でトランス陛下や大臣達と、話し合いを持った。


「おお、ジラルディよ。よう来てくれた。

 期待しておるぞ、しっかり頼むっ。」


「陛下、先ず始めに、俺の仕事を邪魔しようとする者達を、排除していただけますか。」


「うむ、そんな者達がおるのか。どこの者達だ、すぐに排除してくれる。」


「その方達は、王の周りに控えておられます。」


「なっ、なんと。大臣達だと申すか。」


「そうです。大臣の皆様は、俺が領地の改革を成功させて功をたてることを妬み、遅延や妨害をしようとするでしょう。

 わずか7才の子どもが功を成せば、自分達は無能の評価を受けると危惧しているからです。

 そうではありませんか、宰相閣下。」


「むっ、そのような愚か者はおらぬ、と思いたいが、断言はできぬな。」


「ではジラルディ。どうせよと言うのじゃ。」


「軍務大臣を除く全大臣を俺の補佐官として、視察に同行させてください。

 その上で手抜きや命令違反があった際には、その貴族家を廃爵すると約束してください。

 国を発展させ、民を豊かにすることが貴族の務め。それを阻む貴族など必要ありません。」


 そう話すと、謁見の間にいる大臣達の表情が凍りついた。


「勘違いしないでほしいのです。俺は功を立てるためにここへ来たのではないのです。

 陛下に無理やり頼まれて、いやいや来ているのです。だから、頑張りません。

 嫌になればすぐに帰ります。父さまも男爵のままで十分だと言っています。そういうことですから邪魔をするなら、ご自由にどうぞっ。」


 呆気にとられ、呆然としているトランス王とセジオ宰相達をその場に残し、俺達は謁見の間をあとにした。




✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢



 最初の視察予定地は、最も貧困に喘いでいる北方の山岳地帯スナビア三領だ。

 王都から最も遠くにあるため、飛行船で向かった。

 スナビア大山脈の麓にあるこの三領は、冬には雪が2mも積もり、気温も零下20度になることがざらにある極寒の地だ。

 おまけに、夏は短いが盆地のために気温は30度まで上昇する。


 土壌はあまり肥えておらず、火山灰質が含まれていて、石灰肥料は逆効果となる。

 また、三領を大きな川が一本だけ流れていて水利はあまり良くない。


「ジル殿、この地は森と草原があるばかりで、川沿いにわずかにライ麦畑を作り、山羊を飼って、なんとか生計を立てているのです。」


 同行したアグリ農業大臣が説明してくれた。アグリ大臣は、初老の穏やかな好々爺だ。


「長い冬を過ごすために暖炉の薪作りも多大な負担となっております。」


 地元スナビアのオスロ男爵が補足してくれた。一冬に必要な薪の量は、家一軒の大きさにもなるそうだから、ほんとうにたいへんだ。


「ジル君、ライ麦以外にはどんな作物を栽培しているのかしら?」


 シルバラは外では他所行きのジル君呼びだ。


「グランシャリオの研修後、じゃが芋と甜菜、蕎麦の栽培を始めました。野菜は元々、大根や胡瓜、白菜などを植えております。」


 う〜ん、俺は漫画に出てくる北国の生活を、想い浮かべて、何が改善できるか考えていた。

 まずは冬の燃料問題か。外気との断熱構造も考えなきゃいけないな。

 作物の栽培は、トウキビや南瓜、各種豆類を試していないのか。灌漑は水車の導入だな。

 でも冬は川に氷が張るって言ってたな。

 温室かマルチ栽培ができるといいのだがな、ビニールシートの発明まで無理か。

 石炭の鉱脈も探すとするか。コンクリートは生産確定だな。ふむふむ。


「ジル君、大丈夫? なんか独り言って笑みを浮かべたりして、気味が悪いわよっ。」


 あちゃあ、シルバラに怒られちゃったよ。




✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢✢



 スナビア三領のオスロ男爵家、フィン騎士爵家、ホルム騎士爵家の当主や家宰、従えて来た大臣達を前に指示を出す。


「先ず、三領内共通で大豆、小豆、えんどう豆を作付けしてください。実の豆を収穫した後の枝や茎は薪の代わりの燃料になります。

 あと、トウキビや南瓜の栽培も試してもらいます。


 次にオスロ男爵は、トロコ鉱業大臣の指導のもと、山麓付近の鉱物調査を行ってください。

 目的は、燃料にする石炭、コンクリート用の石灰ですが、何があるか片っ端から調べてください。


 フィン騎士爵家の皆さんは、アグリ農業大臣達と森で、食用の茸を採取してください。

 それを茸舎を建てて栽培します。

 他に、萌やしやカイワレ大根なども、冬の間も屋内で栽培してもらいます。


 最後にホルム騎士爵家ですが、山羊の飼育に牛と羊を加えてください。各々の生乳からは、バターやチーズ、ヨーグルト作りをしてもらいます。その製造方法は、ショウバ商業大臣から他領の情報をもらってください。」



 新らたに栽培する作物の種子や家畜は、飛行艇の往復でグランシャリオ領から取り寄せた。

 ついでにプレハブ工法の職人も二人呼んだ。

藁断熱材入の特製断熱パネルを地元の職人達に作らせるためだ。

 後学のために、ダリク建設大臣達に協力させることにした。


 飛行船は改良して小型蒸気動力のプロペラを取り付けて、時速60kmくらいだけど、うちの騎士達で運用しているんだ。

 オダイチ交通大臣が、飛行船の国への導入を考えて、部下達を同行させている。

 大型の飛行船を開発すれば、最大50人乗りのキャビンくらいは、できるんじゃないかな。


 その他、オオミチ道路大臣にはコンクリート舗装の街道作りを。ミズホ河川大臣には、水車と灌漑構の建設を指示した。

 その他の大臣達は、各々興味を持った作業に同行させることにしている。



 こうして、北方スナビア三領の新たな開発が始まった。

 果たして漫画の世界のように上手く行くかは疑問だが、大臣や領主達は熱意いっぱいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る