第18話(1) ハロウィン

 ハロウィンパーティ当日。早坂家で着替えを済ました私は、ソフィアちゃんと一緒にパーティ会場に歩を進める。


 さいわい、衣装自体は普通のワンピースと然程変わらないので、上着を羽織はおってしまえば人目を引く事はない。ケモ耳カチューシャは、エコバックの中に入っている。あちらに着いてから付ける予定だ。


 パーティの開始時間は十五時、場所はなんと桃咲とうさき喫茶室きっさしつ


 秋元さんが用意したという事だが、どういった繋がりがあの店とあるのか少し気になる。


 マンションから歩く事およそ三十分。お店に到着した。


 休業しているからかガラス部分には全てカーテンが掛かっており、外から中の様子を伺う事は出来ない。


 いや、むしろそれが狙いか。

 構造的に外から中は丸見え。格好が格好だけに、見世物みせものになるのはやはりけたい。


「行くわよ」


 隣に立つ私にそう声を掛けてから、ソフィアちゃんが扉を開け中に入る。

 その後に私も続いた。


 店内はまさにハロウィン一色だった。

 あらゆる所にカボチャが置かれており、天井からはカボチャやコウモリ、十字架といったぽい物がいくつもるされている。


「あ、水瀬さん、早坂さん」


 出入り口近くにいた木野さんが、私達の存在にいち早く気付き、こちらに近付いてくる。


「とりっくおあとりーとー」


 そして、まるでそういう挨拶かのように元気よく声をあげる。


「と、トリックオアトリート……」


 戸惑いながらも、私はオウム返しに言葉を返す。

 一方ソフィアちゃんは――


「こんにちは」


 とクールに決める。


 さすがソフィアちゃん、木野さんの勢いにされず平静を保つとは。私にはとても真似まね出来ない芸当だ。


「荷物はこっちだって」


 木野さんに案内されたのは向かって右側、壁際のテーブル席だった。すでに、テーブルや椅子の上にいくつかの荷物が置かれている。

 一人、二人、三人分だろうか。木野さんと後は……。


 空いている椅子の上にトートバックを置き、脱いだ上着は背もたれに掛ける。


「水瀬さん達はなんの仮装なの?」

「私達はね――」


 木野さんの質問に対し私は、トートバックからカチューシャを取り出しそれを頭に付ける。


「狼男ならぬ狼女ってね」

「わー。可愛い。ケモ耳だー」


 木野さんは頭のカチューシャがいたく気に入ったらしく、左に右に色々な角度から私の頭上を見つめてくる。


「ありがと。木野さんのキョンシーも可愛いよ」

「えー。そうかなー」


 私の言葉に、照れ笑いを浮かべる木野さん。反応を見るに、満更でもないようだ。


 衣装は、私とソフィアちゃん同様膝上ひざうえたけのワンピース。大きなお札の付いた帽子ぼうしがいいアクセントになっている。


「水瀬さん、早坂さん」


 その背後、こちらに近付いてきた松嶋さんから、私とソフィアちゃんに声が掛かる。


 松嶋さんは魔女の格好をしていた。

 ロングスカートで下半身の露出は少ないものの、上半身はところどころがシースルーになっており、なんだかエッ――もとい、色っぽさを感じる。


「早速で悪いんだけど、会費貰ってもいいかな?」


 お互いに挨拶を交わした後、松嶋さんがそう申し訳なさそうに話を切り出してきた。


「あ、うん。二千円だったよね」

「そう。悪いわね」

「そんなそんな」


 トートバックの中の財布から二千円を取り出し、本体はそのまま戻す。

 はい、と私とソフィアちゃんが、松嶋さんにそれぞれ二枚の千円札を手渡す。


「ありがとう。じゃあ、また後で」


 そう言うと、松嶋さんは私達の元を去っていった。


「今日は松嶋さんも幹事なの?」


 秋元さんが店の手配をしたという事から、彼女も幹事の一人だろうという前提で木野さんにそう質問をする。


「うん。私達もアイデアは出したけど、基本は二人がメイン。あ、買い出しは手伝ったよ」

「そうなんだ……」


 と言いながら、秋元さんの姿をさがす。


 ん? 店内に黒猫が二匹いた。大きいのと小さいのが二匹。片方は秋元さん、もう片方は夏祭りの時に出会った、確か……そう。みさきちゃんだ。でも、なんでここに?


 そんな事を思っていると、秋元さんと目線が合い何やらみさきちゃんと話した後、二人でこちらにやってきた。


 木野さんを除く四人で挨拶を交わす。


「二人はオオカミなんだ。可愛くて素敵ね」

「でしょ」


 秋元さんの褒め言葉に、なぜか関係のないはずの木野さんが胸を張る。


「なんで紗良紗さらさが得意げなのよ」


 それに対し、秋元さんは呆れ顔でツッコミを入れる。


 当然と言えば、当然の反応だ。


「秋元さんとみさきちゃんも可愛くて素敵だよ」


 お返しとばかりに、今度は私が二人の見た目をめる。


 秋元さんとみさきちゃんの衣装は、雰囲気だけで言えば松嶋さんの物とよく似ていた。

 ロングスカートタイプのワンピースに、首元のシースルー、色も同じ黒と来ている。大きな違いはと言うと、松嶋さんの服は長袖で目の前の二人の服は半袖といった事くらい。もちろん、細部に違いはあるし、頭の上に乗った物がとんがり帽と猫耳付きカチューシャと大きく異なっているため衣装の差異は出ているが。


「可愛いって、良かったね」

「うん」


 今のやり取りもそうだが、おそろいの衣装に身を包んだ秋元さんとみさきちゃんは、まるで本当の姉妹のように見える。


 それはそうと――


「でも、なんでみさきちゃんがここに?」


 私は先程から気になっていた事を、このタイミングで秋元さんにぶつけた。


「あー。それは、ここがみさきちゃんのおじいちゃんのお店だから。ね?」

「うん」


 そう、だったのか。夏祭り以降も何度か来ているのに、全然気が付かなかった。という事は、あのいつもカウンターにいる男の人が、みさきちゃんのおじいさん? 言われてみれば、似ている、か?


「ん?」


 ふいに、みさきちゃんに手招てまねきをされる。


「なぁに?」


 私は腰をかがめ、みさきちゃんと目線を合わせた。

 すると、みさきちゃんが私の顔に自分の顔を寄せ、何やら内緒話でもするかのような態勢を取る。


「お姉さん達、おんなじ指輪してるけど、結婚してるの?」

「!」


 驚き、思わずみさきちゃんの顔を見やる。


 どうやら、みさきちゃんは、お揃いの指輪=結婚あるいは婚約指輪だと思っているようだ。


 まぁ、この年頃なら、そういう勘違いをしていてもおかしくないか。もしかしたら、私も同じ勘違いをしていたかもしれないし、人の事は言えない。


「うーん。結婚はしてないかな。けど、仲良しの証なのは間違いないよ」

「そっか。でも――」


 と、そこでみさきちゃんは一度言葉を切ると、


「お姉ちゃん達、すごっくお似合いだよ」


 よりいっそう顔をこちらに近付け、うれしそうにそんな事を言うのだった。

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