第5話(1) 風景

 目覚めると、目の前に見慣れぬ天井が広がっていた。

 しかもそれは、高く、造りが古い、明らかに普通の住居の物ではない天井だった。


「……」


 ここは?


 一瞬、自分がどこにいるか分からなかった。しかし、すぐに思い出す。


 そういえば、昨夜はソフィアちゃんのおばあちゃんの家に泊まったんだった。やけに古風な天井だなと思ったら、そういう事か。


 自分の置かれた状況を理解した私は、何気なく寝返りを打つ。


「……」


 すると、そこには美少女の寝顔が。


 そうか。これも忘れていた。昨夜はソフィアちゃんと、布団を並べていて寝たんだった。


 それにしても、なんという破壊力。私が仮に思春期の男子だったら、この一撃で朝からノックアウトされていた事だろう。良かった、女の子で。


 暫し、ソフィアちゃんの寝顔を眺める。


 改めてまじまじと見ても、やっぱり綺麗な顔しているな。


 髪さらさら、まつ毛長っ、肌つやつや、ほっぺぷにぷに、鼻高っ、くちびるぷるん。ホント、同じ生き物とは思えないクォリティーだ。


「……」


 ふいに悪戯心が沸く。


 布団から手を出し、そっと気付かれないようにそれをソフィアちゃんへと伸ばす。そして、ほおをツンとつつく。


 おー。やわらかい。マシュマロ? もしくはパンケーキ? とにかく柔らかさがダンチだ。


 試しに、もう一本の手で自分の頬を触ってみる。


 うーん。よく分からないが、ソフィアちゃんの方がやはり柔らかいような……?


「ん……」

「!」


 隣の布団から声がれたため、慌ててそちらに伸ばしていた手を引っ込める。


 瞼が開き、そのまま少しの間、ソフィアちゃんが天井を見つめる。


「あー」


 何やら納得したらしい。


 おそらく、自分の今いる場所となぜここにいるのかを思い出したのだろう。


 そして、ソフィアちゃんの顔がこちらを向く。


「おはよう、いお」

「おはよう、ソフィアちゃん」


 私は何食わぬ顔でソフィアちゃんに挨拶を返す。


 大丈夫。バレていない。ソフィアちゃんは今起きたのだ。だから、当然私がした事は気付かれていない。


「うーん」


 声をあげ、ソフィアちゃんが布団の中で大きく伸びをする。


「今何時?」

「えっと……」


 ソフィアちゃんに言われ、枕元に置いてあるスマホを手に取り、現在の時刻を確認する。


「六時十分」

「まだそんな時間かー」


 言いながら、ソフィアちゃんが「ふわぁー」と可愛かわい欠伸あくびをする。


 朝食は七時半と聞いている。なので、寝ようと思えばもう少し寝る事が出来る。


 その証に、スマホのアラームは六時五十分にセットしてあった。


「もうひと眠りする?」

「んー……」


 寝ぼけているのか、ソフィアちゃんが考え込むような声と共に、私の布団にもぐり込んでくる。


「ちょっと、ソフィアちゃん」

「後、五分……」


 いや、うん、五分と言わず、後三十分はまだ寝られるんだけどさ……。


 前回のお泊りの時に分かった事だが、ソフィアちゃんは寝ぼけている時はひどく思考が低下するようだ。

 まぁ、誰しもその傾向はあると思うが、ソフィアちゃんの場合それが人より顕著けんちょに表れる。


 もしかしたら、それだけ私の事を信頼してくれているという事なのかもしれないが、この状況は少しばかりマズイような……。いや、この前も同じ布団で寝たは寝たんだけど、そこに潜り込むという動作が加わるとなぜか破壊力が増す。そもそも、女の子同士なんだから、これぐらいいいっちゃいいんだけど、でも、うーん……。


「んっ」


 夢を見ているせいか、はたまた眠りが浅いせいか、ソフィアちゃんがかすかな声と共に身動みじろぐ。


「……」


 その様子を見ていたら、全ての事がどうでも良く思えてきた。


 ソフィアちゃんは可愛い。それでいいじゃないか。何も難しく考える必要はない、可愛いは正義。それがこの世界の心理であり真実だ。


 ……思考がいい具合にバグってきた。どうやら、私もまだ寝たりないらしい。


 という事で、再び瞼を閉じる。


 夢現ゆめうつつの中、何かに抱き着かれた気がするが、それがどちらで起きた出来事かその後すぐに意識が途絶えた私には区別出来なかった。

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