嗤うヒト
「ヒトの生活に紛れ込むって楽しいものなのかい?」
目の前で毛づくろいをしている猫に向かって尋ねる。
「なぁお」
黒い体毛に覆われた猫は、しかしところどころ雪が積もっているかのように白い模様が広がっていて。ひらりと尾を揺らすと上機嫌に鳴いた。
「ふぅん、そう」
猫の感覚が分からない。もう何十何百年も一緒にいるはずなのに、こういうところだけはどうしても理解ができない。
「気が向いたら試してみようかな……」
ポツリと呟く。
猫はコテンと首を傾げていたが、しばらくすると興味を失ったのか毛づくろいを再開した。
やがて。
こちらに対して完全に興味を無くしてしまった猫に背を向ける。
そのまま歩き出そうとしたところで声がした。
「君にはちょいと難しいんじゃないか」
楽し気に弾む声は聞きなれたモノの声。
「君は紛れられないと思うよ。あまりに人から外れてるし」
声が続く。
そういう君は一体どんな了見で自身を人だと思い込んでいるのか、と問いただしてやりたいが、人の枠から大幅に外れてしまっているのは事実。言い返そうと開いた口も自然と閉じた。
「ま、本気で試してみたいなら手伝うけどね~」
猫は気まぐれに笑うと、ゆらりと手を振って姿を消した。
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