用済みになった勇者は新たな脅威に〜処刑された勇者は5000年後へ〜
肩こり
プロローグ〜転生〜
王暦83年、時代を作った二人が今、雌雄を決そうとしていた。
「勇者ギルよ、何故私たちはこうして戦っているのだ?」
戦いの最中、剣を構えた美しい女、魔王レオが勇者に問う。
「何を今更……! 貴様らが人を殺し魂を喰らうから……滅ぼそうとするからだ!」
勇者が激昂し声を上げる。
「知っているか? 人と魔族が争う前、貴様らは同じ人間同士争っていたそうではないか。肌の色が違うから、文化が違うから、信じる神が違うから、少数を迫害し、上下関係を創り出し殺して来た。愚かだとは思わないか? 命は皆平等と謳いながらも同じ人間すら蔑み、差別して殺していく。実に愚かだ。
だが、我々とて人が愚かだから、という理由だけでは貴様らをわざわざ殺そうとはしない。貴様らが何をしようと我々にはなんの関係もないのだからな。だが、貴様らは愚かにもその矛先を我々魔族へと向けて来たのだ。その昔に結ばれた相互不干渉の掟を破り……な。やられたからやり返す、当然の話だろう?」
魔王は表情も一切変えずに、ただ淡々と勇者に語りかける。
「お前はそう言って今まで何人の命を奪って来た……! アルケミラもお前に殺された……!」
「アルケミラ……ああ、そういえば随分と
そっくりそのまま返す。
およそ百年前、先に弓を引いたのは人間の方だった。人と姿が違うからか、はたまた人同士の争いを辞めるために共通の敵を作ったのか、それともただ領地が欲しかっただけなのか。その理由は今や知る由もない。
否、知ったところでどうと言うことはない。人が殺し、魔族も殺した。その時点で戦争になる未来は決まっていたのだ。
「……なあ勇者よ、貴様は魔王である私が死んだら平和になる、そう考えているのではないか?」
「当たり前だろう、お前が滅べば……争いは無くなり人々は平和に暮らせる」
全ての元凶は目の前にいる魔王だ。魔王さえ止めることができれば戦争も止まり平和が訪れると考えている。
「はぁ……貴様は話を聞いていないのだな、私は言っただろう? 人間と魔族が争う前、愚かにも同じ人間同士で殺し合っていたのだぞ? 何かが違うからと言う、くだらぬ理由で」
「戯れ言を! 俺は人を信じる、人の絆を、人の愛を! お前さえ滅べば人は手を取り平和に世を築いて行けるんだ……!」
勇者ギルのその言葉を聞き、魔王レオは少しだけ微笑む。
「くっはははは……!! 愚かな夢物語だ! それなら……そうだな、試してみるか? 貴様ら人間の絆、愛とやらを」
ゆっくりと魔王レオが言う。
「……何を言っている?」
「私が死ねば貴様ら人間の世界が手を取り争いのないものへの変わるのかを試してみるか? と聞いているんだ」
「お前が……お前が自ら命を差し出すとでも言うのか!?」
「そう言っているだろう? 一つだけ条件を付け、私は潔く死ぬことにしよう。さあ、どうする? 勇者よ」
「何故今更……今までに暴虐の限りを尽くしたお前が何故今更!」
目の前の魔王から出たとはとても思えない言葉、その言葉に勇者ギルは混乱する。
「私はもう疲れたんだよ、人間は信じるに値しないが貴様は信ずるに値する人物だ。それだけ貴様の実力を、その信念を買っているんだよ私は」
「……条件はなんだ」
渋々ながらも勇者は条件を聞く。
「魔族に関わるな、簡単なことだろう? その昔に結ばれた相互不干渉の掟を復活させるだけだ」
「……分かった、もう魔族に手は出さない」
「そうか……貴様と戦っていた時間は楽しかったぞ、せいぜい足掻け、そして勇者よ、最後に忠告だ。信じすぎないことだ……」
そう言って魔王は己の胸に剣を突き立てた。
「魔王レオ……お前は一体なんなんだ……?」
勇者は魔王の最後の言葉に困惑しながらも、戦いにより汚れた魔王の亡骸を綺麗にした。
「約束は果たす。さらばだ」
去り際に別れの言葉を魔王に告げた。その言葉を聞いた魔王の亡骸が少しだけ微笑んだように見えた。
「我が命を糧に……保護せよ、分かて
その生涯に幕を閉じる寸前、魔王はその命の全て使い、魔界全体を保護した。それと同時に魔王レオは光の粒子となり消えて行った。
◆
「何を言っている!?」
「相互不干渉の掟を復活させます」
魔王討伐後、街に戻った勇者ギルは王達に魔王と交わした条件を伝える。
「ならぬ! 魔王を倒した今、魔族達の力は弱まっているはずだ! 叩くなら今しかないのだぞ? 新たなる魔王が出現する前に滅ぼさねばならぬのだ……!」
「そうして
「分かってないのは貴様だ! 何故分からぬ……魔族など存在するだけで罪なのだ! 滅ぼさねばならぬ……! 我が妻も殺されたのだ……!」
両者一歩も引かず、主張がぶつかり合う。
「辞められる戦争なのですよ? そこに欲を掻きこれ以上死者を増やすおつもりですか!? 一人一人に家族がいるんです……王、家族を失う痛みはあなたもよく分かるのでは? もし分かるのならば、戦争などもう辞めるべきです! もしまだ続けると言うのなら……私が全力で止めます……!」
「……ギルよ、残念だ」
そう言い放ち、王は一つの宝石のようなものを取り出す。
「やはり貴様は相応しくないようだな」
取り出した宝石をギルに向かい投げた。
「何を……? ーーぐっ!? 力が……!?」
「魔族には効かないが人間には効くようだな、勇者ギルよ、貴様を処刑する! 執行は即日、今この場で!」
その声と同時に兵士たちは倒れ伏すギルを取り囲む。
訓練されたかのような素早い動き、まるでこうなることをあらかじめ分かっていたかのようだった。
「何故……! 何故ですか……!?」
ギルがそういうと一人の女がゆっくりと歩いてきた。
「まだ分からないの? あなたはただの兵器、いらなくなった兵器は処分するでしょう?」
そういい、女は笑う。そのいやな笑顔がギルの脳裏に強く残った。
「魔王なき今勇者など要らぬ……いや、むしろ邪魔なのだ。ただ勇者であるのならば良い、しかし貴様は事もあろうに魔族殲滅に反対、邪魔するとまで……本当に残念だ。死ね、愚かな勇者よーー執行!」
ギルの首に、剣が振り下ろされる。
(ああ、魔王レオ……お前が正しかったよ……約束は果たせないな……救うやつを間違えたらしい……)
最後にギルの瞳へと映されたのは醜い笑顔をその顔に貼り付けていた多数の人間だった。勇者は後悔を胸に世を去っていった。
勇者と魔王、一つの時代が終わる。
魔王が張った壁により、魔族と人類は完全に分たれることとなった。
魔族という共通の敵が居なくなった人類は、再び同じ人類同士で争い血を流すことになったそうだ。
◆
(ここはどこだ……? 俺は殺されたはず……)
一度殺されたはずのギルは暗闇にて再び目を覚ました。
『魔法の失効を確認しました』
ギルの頭の中に無機質で無感情な声が頭の中に響いてくる。
そして暗闇に浮かんでいた謎の光がギルの体を包む。
『要請を確認。魔法失効の代替措置として
その声を最後にギルの意識はゆっくりと暗闇に吸い込まれていった。
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