酒涙雨で終わりにしようか?君の心臓を天に捧ぐから。
蘇 陶華
第1話 雨に佇む少女に花を。
昨夜から、降り出した雨は、登校時間になっても、降り止む事はなかった。犀花は、学校に持参する傘が、見当たらず、母親に聞いたらいいのか、躊躇っていた。母親は、昨夜から、すごく、気分が悪い。年下の彼氏から、最近、連絡がないからだ。仕事から、帰るなり、寝ている犀花に八つ当たりし、そのまま、眠ってしまった。
「今日も、飲んできたんだ」
犀花は、母親を上から見下ろした。だんだん、母親に似てきた自分が、恨めしい。このまま、母親が死んでくれたら、どんなに、嬉しいか。幼い頃、何度も、家に置き去りにされ、泣いている所を保護された。別れた犀花の祖母が、何度も駆けつけ、保護を提案したが、犀花の母親が、承知しなかった。犀花は、母親と一緒に居たくはなかったが、母親を1人にしてしまったら、死んでしまいそうな気がして、母親の元に留まっていた。祖母のそばに行けば、新しい自分になれると思ったけど、自分には、明るい未来なんて、訪れないと信じていた。
「気持ち悪い」
新しい高校も、馴染めない。いつも、辛気臭い犀花に、クラスメイトは、陰口を叩いた。そう言われても、仕方がないと思っている。鏡に映る自分は、暗く、とても、高校1年生には、とても見えない。暗くて、陰気が娘だと思っている。
「じゃあ。。行ってくるから」
小さな声で呟いて外に出る。朝ご飯なんて、ない。たまに、母親が機嫌のいい時に、パンを買ってくるが、本当に、たまにあるだけで、朝ご飯は、食べない習慣になっている。朝も、昼も一緒に、学校の屋上で、1人で、食べていた。外は、雨が、降っている。この時期の雨は、気持ちがいい。傘が、見当たらなかったので、アパートの廊下にあってかけてあった、誰かの忘れた傘を手に取ると、走り出していった。長い間、忘れ去られた傘のようで、あちこちに、埃がついている。
「ないより、まし」
傘を開くと、たくさんの誇りが、落ちてきた。気持ちのいい雨でも、犀花には、悲しい思い出も、雨に起因する。優しい父親が、事故で亡くなったのも、こんな気持ちのいい雨の日だった。信号無視した大型トラックに、衝突され、亡くなっていった。あの日から、母親が変わってしまった。
「いい思い出なんて。。」
犀花は、それを見上げた。
「ない」
自分も、この先、どうしていったらいいのか、わからない。学校にも、身の置き場所は、ない。じっと、下校時間まで、耐える日々。何人かのリーダー格の子が、犀花にちょっかいをかけてくるが、相手にするのも、疲れ始めていた。
「ばかにしているの?」
トイレに入っていると、上から、水が降ってきた。
「相手にするの、やめなよ」
誰かが、止めに入ったが、最後の声は笑っていた。犀花は、何事も、なかった顔で、クラスに戻るとタオルで、体を拭き始めた。
「大丈夫?」
声をかけてきたのは、やあり、クラスで嫌われていた男子だった。柊雨と言った。今時、コンタクトもせず、節目がちなメガネをかけ、いつも、教室の隅で、本を読み漁っていた。あまり、人とは、話した事はなく、なんとなく犀花の事は、気にしている様子だった。
「かまわないで」
また、冷やかされると思い、犀花は、教室を後にした。
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