【ブログ再掲】使う前は「え〜そんなんいいよ普通ので充分だもん」と思っていても一度使ってみるとその便利さにもう昔には戻れない家庭用品(TISK)ナンバーワン決定戦

(過去にサイト投稿したネタを再掲しています)


 第1試合、キッチン用品から唯一の出場となった圧力鍋と、ここ数年メキメキと頭角を顕す期待の若手空気清浄機との戦いは、第1ラウンド25秒レフェリーストップで空気清浄機の圧勝という実にあっけない幕開けとなった。ゴングとともに怒濤のラッシュを放った空気清浄機の前に、今期での引退を表明しているベテラン圧力鍋は全く手が出せず、秒殺という屈辱の結果に終わったが、試合後のインタビューに「老兵はただ去るのみ」とだけ語った圧力鍋には、スタッフから惜しみない拍手が送られた。


 うってかわって、第2試合は電動歯ブラシと電動シュレッダーの新人同士の戦い。両者とも力の面ではベテラン勢にやや劣るものの、多彩な技を操る技巧派で、フルラウンドに及んだ試合中、何度も観客を湧かせてくれた。判定は割れ、決着は3分の延長戦に持ち込まれる。延長ではシュレッダーに疲れがみられ、未提出の領収書を誤って裁断するなどミスが目立ち、余力を残していた電動ハブラシの判定勝ちとなった。


 第3試合は、第1試合で鍋を瞬殺した空気清浄機と、前、前々大会優勝者であり、今大会でも屈指の優勝候補である第1シード、ウォッシュレットとの戦いだ。絶対王者の風格漂うウォッシュレットを前にいささか緊張したのか、空気清浄機は押され気味の出だし。第2ラウンドに入っても、思うように手が出ず観客とセコンドを苛つかせた。しかし最終ラウンドでは「花粉タイフーン」など開き直りともとれる一発が飛び出し、あわやと思わせる場面もあったが、王者の前に力及ばず、3−0の判定負けとなった。破れた空気清浄機は試合後、「疲れはなかった。ただ、まだまだ実力不足。精進します」と謙虚な態度を見せた。


 第2シードのドラム式洗濯乾燥機に対するは、前の試合判定勝ちでからくも勝利した電動歯ブラシだ。第4試合は重量級対最軽量級という異色の組み合わせとなった。フル充電を終えた電動ハブラシに、シュレッダー戦の疲れはないようだったが、ドラム式洗濯乾燥機のベテランらしいさすがの試合運びに翻弄され、なかなか技を決められない。経験の差、体格の差もあり、ハブラシ圧倒的不利と会場の誰もが思った。しかし第2ラウンド中盤、ドラム式洗濯乾燥機の「雨の日も安心ハイキック」を紙一重でかわした電動歯ブラシは、重量差から言えば捨て身ともいえるタックルをかまし寝技に持ち込む。得意の形に持ち込んだ電動ハブラシはすかさず「こんなツルツルな前歯、私はじめて式十字固め」を決め、ドラム式もこれにはたまらずタップアウト。トーナメントはここへ来て、前大会準優勝者が初戦敗退という波乱の展開を見せた。


 そして優勝決定戦。王者の圧倒的な力を見せつけたウォッシュレットVS、新人ながらも下馬評を覆し勝ち上がってきたダークホース電動歯ブラシという、誰もが予想しなかった組み合わせに、会場のボルテージは最高潮となった。便利用品界をリードし続けた帝王に新進気鋭の技がどこまで通用するのか、全員が固唾を飲んだ第1ラウンド、電動ハブラシは先手必勝とばかりに攻撃を仕掛ける。しかしウォッシュレットは、前試合でドラム式洗濯乾燥機を破った寝技を警戒しつつも、余裕すら見せて攻撃をかわしていく。ハブラシは逆にカウンターを狙われ、ウォッシュレットの禁断技「肛門注入アッパー」が下顎に炸裂、あわやKOかというところをゴングに救われた。第2ラウンドも王者の一方的な展開で進み、誰もが予定調和を想像した最終ラウンド、ドラマは起こった。すでに半グロッキー状態のハブラシに王者の警戒が解けたのか、慢心からくる油断か、開始直後の足へのタックルでウォッシュレットは寝技に持ち込まれてしまう。体勢を立て直す間もなくハブラシ得意の「ヤニ取り式ホールド」が完全に決まり、ウォッシュレットは懸命にロープに逃れようとするも万事休す、第3ラウンド45秒失神KO。電動ハブラシが前大会王者を破り、5代目王者となった。新王者となった電動ハブラシは、記者会見で「チャンピオンは本当に強かった。今日は運が良かっただけ。それでもこの勝利は本当に嬉しい。これからも頑張りたい」と帝王に敬意を示しつつ、喜びをあらわにした。


<共同チューシン社/佐々木記>



(2009/5/5初出)

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