本当の現実のこと2
マーゴットの両親、王弟の父公爵と母が亡くなったのは14歳頃のことだ。
当時まだマーゴットはメイ王妃が魔憑きとは知らなかったが、王妃と関わった人間がおかしくなりやすいことには両親と一緒に気づいていた。
一番気がかりだったのは、その悪影響を従兄弟のバルカス王子が受けてしまわないかということ。
これまでは父公爵がバルカスをオズ公爵家に引き留めていたが、両親の死去でその枷がなくなってしまう。
仕方なく、マーゴットはバルカスの関心を得て王妃から引き離すため、公爵家の遺産を貢いで利用することにした。
ループを繰り返してしまった夢見の出来事と違うところは、貢ぐ金貨や品物を上手くコントロールして苦境に陥るほどにならなかったことだろうか。
バルカス王子本人はそんなマーゴットを鬱陶しがって学園の取り巻きたちと悪い遊びに嵌っていく。
婚約者のマーゴットの公爵家への王家からの支援金の横領や、オズ公爵家の金貨の勝手な使い込みもあった。
もっとも、これらの件についてはマーゴットはすぐ動いて対策を講じていたため、大きな損失にはならなかったが。
マーゴットなりに様々な対応を行ったが、やがて学園の高等部でバルカス王子は平民の女生徒ポルテと恋に落ちて、マーゴットとの婚約破棄を企むようになる。
その企みを知って、失意のままマーゴットはアケロニア王国に留学した。
グレイシア王女やテオドロス国王、リースト伯爵家の面々との交流は現実でもあった出来事だ。
帰国して、次期王太子は王太女としてマーゴットに正式に決定される。
それに不服を唱えたバルカス王子がマーゴットの廃太子計画を立てるが上手くいくことはなかった。
学園を卒業した時点でマーゴットは女王に即位し、唯一残っていた婚約者候補のバルカス王子と婚姻を結ぶ。
しかし、恋人のポルテを寵愛し続けていたバルカスはマーゴットとの初夜を拒否した。
そればかりか、王配でありながら、マーゴットの廃位活動を開始する暴挙に出る。
愚挙をカレイド王国の守護者カーナに諌められるが、激昂したバルカスがカーナを国宝の魚切り包丁で斬った。
一命は取り留めたが魔力保存のため魔力の繭に包まれて、そのままだ。
この時点でバルカスの放置はできないと判断した。
マーゴットは女王の権限で王配バルカスと不貞相手の平民女ポルテを捕らえて、別個に監禁している。
なお、この時点でシルヴィスは一回もカレイド王国に帰ってきていない。
「そして私には子供がいて……」
「え? 待って待って、それは誰との子なんだい!?」
「……私はその時点でまだ貞節を保っていた。赤ん坊は産んでない。黒髪に琥珀の瞳の男の子よ。虹色を帯びた真珠色の繭から飛び出してきた男の子……」
侍女たちが運んでくれた食事や飲み物に手を付けることを忘れて、マーゴットはこめかみを押さえた。
「ある日、繭の中から赤ん坊が出てきたの。カーナ、あなたにそっくりな男の子よ。でもその子をカーナと呼んだら守護者の弱体化した姿が人々に知られてしまう。私は赤ん坊を自分とカーナとの子だと偽って公表した」
マーゴットは燃える炎の赤毛と鮮やかなネオングリーンの瞳。王配バルカスは金髪青目。
発表するまでもなく、赤ん坊が王配バルカスとの子供でないことは誰の目にも明らかだ。
「公表するなりアケロニア王国のグレイシア王太女が激怒して、守護者相手とはいえ不貞を犯したならバルカスと離縁しろと言ってきて。私は彼女の意見を退けたわ。そうしたらもう両国は関係悪化よ。国交断絶寸前だった」
後悔があるとしたら、親友のグレイシアにも事情を伝えていなかったことだ。
ただ、事情が事情だ。バルカス王配が、よりによって自国の守護者を害したなどと発表はできない。
しかも神人カーナは現存するハイヒューマンの中で最も深く人間社会と関わっている有名人でもある。真実が世間に知られたら、カレイド王国は王家どころか国が崩壊しかねなかった。
建国からの守護者の弱体化が他国に知られれば余計な侵略を招きかねない。
カレイド王国は、神人カーナが守護するからこそ三千年も安穏と現代までやってこれた国なのだ。
私生児を産んだと見なされた女王マーゴットは国際社会からも批判を受けることになった。
その先鋒にアケロニア王国のグレイシア王太女がいたのは言うまでもない。
それからも毎年、アケロニア王国のグレイシア王女が考えを改めるよう言ってくるのだがマーゴットは聞き入れなかった。
ただ、いつか、機会があれば彼女にだけは真実を話しておきたいとは決めていた。
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