カレイド王国の闇の謎
「なるほど、そんなことがねえ」
マーゴットとバルカスは同い年だが、シルヴィスは二人の8歳年上だ。
二人が5歳のとき、子供の無邪気さで互いに「バルカスだいすき!」「ぼくもマーゴットすきー!」と楽しげに遊んでいたとき、シルヴィスは13歳、思春期のお兄ちゃんだった。
さすがに幼児たちに混ざって自分まで「好き好き♪」とはやれなかった。
婚約者候補として、マーゴット、バルカスの三人で集まって交流する機会は多かった。
けれどシルヴィスは最初、同い年同士で話題も多い二人の間にどうしても入れず、少し離れたところから二人を見ているだけのことが多かった。
最初に挨拶をして、用意されたおやつを食べ終えると、幼児のマーゴットとバルカスは一緒に遊びに行ってしまう。
なかなか自分から絡みに行けず見守るだけの見事な陰キャだったシルヴィスを、カーナを始めとした周囲の大人たちは苦笑しながら励ましていたものだ。
当時、既に神殿に出入りして神官の修行を始めていたシルヴィスは、感情のコントロール訓練をやりすぎて顔の表情があまり動かない少年だった。それも良くなかった。
そこでカーナは、人付き合いの極意だと言って、自然な笑顔を作れるよう練習することをシルヴィスに助言した。
シルヴィスにとって、当時最も好感度の高い笑顔の人物はカーナだったから、カーナの表情を真似た。
先日、グレイシア王女にカーナに似ていると思われたのはこのせいだろう。
「マーゴットの告白を受けていたなら、今のマーゴットがバルカスを正式な婚約者と思っているのは気分が良くないね?」
「もちろん。ですが、告白の後、次に会ったときマーゴットは自分の告白を忘れてしまっていたんです」
「え?」
まるで老人が物忘れをしたかのように。
そして、自分はバルカスを自分の王配に決めたとシルヴィスに言った。
前に王宮で会ったとき、シルヴィスを選んだはずなのに。
「すぐに彼女の父君のラズリス様に会いに行って確認したんです。マーゴットの様子がおかしいから、彼女に弓祓いをしてくれと頼みに行きました。でも」
『シルヴィス。これ以上はもう私の手には負えないんだ』
いつもシルヴィスを祓ってくれていたマーゴットの父、王弟のオズ公爵ラズリスは申し訳なさそうに言った。
オズ公爵はマーゴットが生まれるまでは、兄の国王の次の血筋順位二位。生まれた後は三位になった人物だ。
マーゴットと同じ燃える炎の赤毛と、今のシルヴィスと同じ無色透明の魔力を持っていた。ただし彼は王子だったので神殿に入る神官のような修行はしていない。
ただし、弓の鍛錬だけは怠っていなかったようだ。
兄の即位に伴って臣籍降下して王都内の屋敷を賜り、敷地内に祭殿を作ってそこで朝晩、日課として弓の弦を鳴らしていた。
そのとき、シルヴィスはオズ公爵から、これまで教えられていなかった真実を聞かされた。
「諸悪の根源がメイ王妃なのは間違いないそうです」
「そりゃね。この状況なら誰だってそこに気づくよ」
「でもね、カーナ様。王妃は神官だった僕が見ても、邪悪なものには見えなかったんですよ」
「そこだ。そこがわからないところなんだ。でも彼女、噂で聞く話でもあまりにも言動が無神経だし、身近な人たちへの被害が大きすぎる」
王妃は今の国王と結婚した後、やはり他国の平民の出自がネックとなって、本来王妃がやるべき執務や公務から外されていると聞く。
外交に必要な能力もないから、他国の要人を接待することもない。
例外的に国内の王家主催の一部のパーティーには参加するが、ほぼ王宮から出さない方針を取っているとカーナは聞いている。
「『本人は邪悪ではないが、“魔”が入っている』とラズリス様は仰ってました」
「魔ぁ!?」
カーナは思わず座っていたベッドから立ち上がった。
魔は人間が生み出すネガティヴなもののうち、邪と並んで厄介なものの一つだ。
軽いものなら入浴して汗とともに洗い流せるし、専門の術者が作成する護符で防御できたが、深刻なものになると血筋の中に紛れて子孫まで悪影響を受ける。
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