酔っ払い守護者、王都で捕獲される

 アケロニア王家の名物料理、ローストドラゴンは実に素晴らしかった。


 ハイヒューマンの青年カーナは、王宮で腹一杯、遠慮なく良いワインと一緒にローストドラゴンを詰め込み、皆に暇を告げてご機嫌で王都の夜を歩いていた。


 ねぐらにしている神殿へは飛べばすぐなのだが、滅多に来ない国だから歩いてみたかったのだ。

 マーゴットやグレイシア王女のような人間の貴人は馬車移動が基本だから、一緒にいるカーナも同乗することになるので。


 ちょうど王都騎士団が郊外で討伐したばかりの飛竜の肉を熟成させたものがあったそうで、食べ頃の肉の塊を外はこんがり、中はジューシーに。

 外側に岩塩をたっぷり塗り付けて、胡椒はあえて使わない。

 スライスしたものをそのままでも美味いのに、秘伝だというガーリックソースといただいたら、もう本当に凄かった。


「あのソースだけお土産に持たせてくれないかなあ。それとも、オレが竜を狩ってきてまた作ってもらうとか~♪」


 まさに酔っ払いの言動でフラフラ歩いていると、突然後ろから肩を掴まれた。


「カーナ様! 光りながら酔っ払って歩いている黒髪の不審な男がいると噂を聞きつけてみれば、やはりあなたでしたか!」

「えっ不審者!? ……ああ、シルヴィス!」


 マーゴットの幼馴染みその2の、銀に近い灰色の髪と瞳の青年が、ちょっと怒った顔でカーナを睨んでくる。


 周りを見回してみると、確かに自分の歩いた跡がほのかに虹色に光っている。ハイヒューマンの中でも神人に進化したカーナの魔力の色だ。


「ちょうど良かった。寄って行ってください。僕は今、王都のギルドの寮にいるんです」




 冒険者ギルドは各国どこでも同じ赤レンガ造りの三階建ての建物だ。

 一階には受付や討伐品の買い取り窓口、売店、それに酒場を兼ねた食堂がある。


 寮は大抵、ギルドの建物に併設されている。


 シルヴィスは食堂で適当に飲み物と食事などをテイクアウトで注文して、バスケットに詰めてもらってからカーナを連れて寮の部屋へ入った。


「すいません。単身者用の部屋で狭くて」

「大丈夫」


 部屋にはシングルベッドと小さな机と椅子、クローゼットがあるきり。


「それ、冒険者ギルドの制服だろう? 冒険者じゃなくて職員だったの?」

「冒険者ランクが上がって、職員への登用試験に合格したんです。ランクもAになって、あと幾つか任務をクリアすればサブギルドマスターになれます」

「そりゃすごい出世だ」


 カーナには瓶のまま白ぶどうの果実水を持たせてベッドに座らせ、シルヴィスは椅子に座ってバスケットの中のサンドイッチを食べ始める。

 カーナは王宮で夕飯を済ませたばかりだと言うので、食事はシルヴィスだけだ。




「あの上品な貴族令息だった君が、まさか早食いできるようになってるだなんて」

「冒険者なので。ゆっくり食してる時間がないことが多いのです」


 ものの数分で食事を終え、ミネラルウォーターを飲んで一息ついたところで、シルヴィスはじっとカーナの琥珀の瞳を見つめた。


「で。なぜ、守護者のあなたがマーゴットを連れてアケロニア王国こんなところにいるんです?」

「話すと長いよ?」

「要点を押さえて簡潔にお願いします」


 と言われたので、かくかくしかじか、と話してやると、シルヴィスの整った顔がどんどん不愉快そうに顰められていった。


「ループ現象、ですか。しかも、……バルカスに必ず殺されて終わる、だと……?」

「そう。ただ、回を繰り返すごとに、少しずつ改善はしてるみたいだ。守護者のオレを思い出して神殿を通して相談してくるようになったし、こうして国を出てアケロニア王国まで来ることもできるようになった」

「なるほど……」


 口の中が苦くなってくるような話だった。

 シルヴィスはミネラルウォーターで口中を洗い流すようにまた一口飲んだ。




「さあ、次はシルヴィス、君の番だよ。カレイド王国の血筋順位七位の君が、なぜ国を出て冒険者なんかやってるんだい?」


 カーナがカレイド王国で王家の血を引く伯爵令息だった彼と最後に会ったのは、約8年前。ダイアン国王に国に来ないでくれと頼まれた頃と一致する。


「……時系列順に話すので、長くなりますけど」


 自分は簡潔にまとめて話せと言っておいて、だが。


「オレがどれだけ生きてると思ってるのさ。長話結構、良い暇つぶしになるからね」


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