カレイド王国の雑草会

 マーゴットが学園へ登校しない間に、友人たちはバルカス王子の不貞や悪辣の証拠を集めてくれるという。


 一か月ほど後、集まった数々の証拠を前にマーゴットは考えた。


「私、このままバルカスと婚約を続けていたいのかしら?」


 国王と王妃は、バルカス王子の平民の女生徒ポルテとの関係を把握しているようだが諌めていないという。

 むしろ王妃など、婚姻前の遊びぐらいは許されて当然と公言し、積極的に推奨しているとのこと。


 これまで、婚約者としてマーゴットはバルカス王子の問題行動を何度も諌めてきている。

 だが幼馴染みの気安さがいつの間にか形を変えて、マーゴットをぞんざいに扱うようになった彼は、注意しても耳を貸さないのだ。


 少し考えて、マーゴットは公爵家の高位貴族として法に則った行動を起こすことを決めた。


「バルカスに少しはお仕置きをしましょう」




 貴族の婚約者が不貞を犯した場合、このカレイド王国では、罰則は相手の身分によって異なってくる。


 バルカス王子は王族だから、婚約者のマーゴット側から何かするのは得策ではない。

 いくらマーゴットが次期女王に内定していても、現状ではまだマーゴットが王太女だと世間が知らないので。

 公爵令嬢によるただの嫉妬だと笑われでもしたら目も当てられない。


 となればターゲットは不貞相手の平民の女生徒ポルテだ。


 マーゴットの家は公爵家だったが、今はもう専任の弁護士ひとりいない。貧しかったからだ。


 原因は王妃の命令による、マーゴットの許可のない派手な葬儀と霊園の造園負担、そしてバルカス王子によるオズ公爵家への支援金の略奪。

 この件についても、いつまでもやられっぱなしでいるつもりはなかった。




 マーゴットはまず、法務省の事務局に相談の手紙を書いた。

 内容は貴族の婚約に関する問題を相談したい旨。


 すると数日で法務省の相談窓口を紹介する返信が届いた。

 相談窓口への来訪にアポは不要とのことなので、馬車を借りて法務省を訪れたマーゴット。


 しかし、応対してくれた当日の相談担当者から自己紹介を受けて、マーゴットは見込みなしと判断して踵を返そうとした。


 ホルトラン侯爵令息テオドア。

 あのバルカス王子と一緒になって、マーゴットの公爵家への支援金を着服し、受領サインの偽造を行なっている側近の実の兄だ。

 ちなみに宰相令息でもある。


「あなた以外の方が担当の日に、また来ますわ」

「ま、待った待った! オズ公爵令嬢、お待ちを! 大丈夫です、事情はすべて把握しておりますので!」


 担当官ことホルトラン侯爵令息テオドアは慌ててマーゴットを引き止めた!


「マーゴット嬢、安心してください。身内がどうあれ私たち法務省の担当官には守秘義務がありますし、個人的に王子殿下の問題行動も把握して苦々しく思っていたのです。相談者のあなたに不利になる行動はしないと誓いましょう」

「でも」


 とためらうマーゴットに、テオドアは、


「大丈夫なんです。安心してください。私は“雑草会”の会員です」




 雑草会とは、始祖と中興の祖の女勇者の血筋で構成されている、血筋チェッカーの魔導具で身体に血筋順位の数字が出る約千人で構成された団体のことだ。


 平民出身から勇者に目覚めて女伯爵となり王妃まで成り上がった女勇者の偉業を讃えて、平民の比喩でもある雑草を冠したのが会の由来と言われている。


 会員は王族、貴族、平民とまんべんなくいて、近い遠いの差はあっても全員が親戚だ。


 当然、王家は全員が雑草会の会員上位ナンバーのはずなのだが、現国王が他国の平民女性を王妃にしたことで、生まれたバルカス王子の身体に数字は表れなかった。


 その上、そのメイ王妃の懇願によって、王家はただの一王子に過ぎないバルカス王子に王太子を名乗らせている。


 これらの暴挙により、現在の王家と、その親戚集団であるはずの雑草会は険悪な仲となっている。


 それは血筋順位一位のマーゴットも例外ではなかった。

 父公爵が存命中は、距離を置いていたという程度ではあったのだが。




 ともあれ、雑草会の会員で法務省の担当官テオドアはマーゴットの訴えを聞いた上で、国内の貴族法を丹念に調べ上げてくれた。


 結果、マーゴットはバルカス王子の不貞相手のポルテに対し、高位貴族として制裁を加えることができると判明した。


「その際、国王夫妻に許可を求めておくと良いでしょう。『バルカス王子の不貞相手に、婚約者の自分が制裁を下すが良いか?』と」

「でも、そんな。陛下たちが許可を下さるでしょうか?」


 特に王妃はバルカス王子を溺愛していて、ポルテとの恋人関係も推奨しているらしいのだが。


「許可しないわけにはいかないでしょうね。本来なら両親である陛下たちこそが嫡男の王子殿下を諌めなければならないところを、婚約者のマーゴット様本人から指摘されてしまうわけですから」


 下手に誤魔化そうものなら、国王と王妃の名誉に関わる。


「また、制裁を加える場には王家からの見届け人を派遣してくださるようお願いしてください。もちろん、本件の相談案件の担当官である私も当日は同席します」



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