再び卒業式、婚約破棄とマーゴットの殺害
◇◇◇
「オズ公爵令嬢マーゴット! 貴様との婚約は今日を限りに破棄させてもらう!」
ああ、結局、最後までこの人は国王や王妃から真実を教えられていないままなのか、とマーゴットは残念に思った。
さあ、同じ出来事の繰り返しだ。
マーゴットはこれから自分の身に起こる凶事の覚悟を決めた。
「……あなたがこの学園を卒業し成人した後も王族でいるためには、私との結婚が不可欠なのよ?」
「何を馬鹿なことを!」
「……まさか、知らないと言うの? 王族に必要な始祖の光る緑の瞳も、中興の祖の勇者の赤い髪も持たぬあなたが、なぜ国王になれるなどと馬鹿げた思い込みを?」
金髪青目の美男子のバルカス王子と、エメラルドより鮮やかなネオングリーンの瞳と燃える赤い髪のマーゴット。
この国では誰が何と言おうとマーゴットのほうに軍配が上がってしまうのだ。
「どいつもこいつも、何が始祖だ、何か中興の祖だ! 俺は国王の父と王妃の母の唯一の息子ぞ、これほど確かな生まれが他にあってたまるか!」
その台詞は、この国の王族が口に出して良いものではなかった。
会場では彼より血筋順位の高い生徒たちが、顔を顰めている。
そう、この国にはバルカス王子よりも王位に近い者が血筋順位で千人いるのだ。
「ならばなぜ、あなたは始祖の瞳も、勇者の赤毛も持たぬのです?」
「うるさい! うるさいうるさい! ……ああ、そうだ。どうせ貴様は俺に捨てられるのだ。次期国王となる俺と結婚しないなら、お前にその始祖の瞳は必要ないな?」
「バルカス、何を!?」
赤い燃えるような髪を鷲掴みにされる。
「ならばお前の目を寄越せ! 医療魔法でなら眼球の移植ができたはずだ。ははは、そうだ、最初からこうしていれば話は簡単だったのだ!」
「!???」
ぐじゅり、と。
そしてマーゴットは目を抉られた。
最初に感じたのはバルカス王子の指の感触。
痛みの前に強い熱を感じた。
抉られ、視神経ごとずるりと眼窩から抜き取られるマーゴットの、始祖と同じネオングリーンの虹彩の眼球。
「マーゴット。貴様なんか必要ない。元から俺には必要なかったのだ。俺にはポルテがいればいい!」
そして髪を掴まれたまま殴られ、投げ出され、床に叩きつけられた。
「マーゴット! マーゴット、ばか、お前何をやっているのだ!」
遠くから、親友だったグレイシア王女の泣き声混じりの罵声が聞こえてくる。
バルカスの処遇を巡って仲違いしたままだった彼女だが、マーゴットの婚儀に参列するためカレイド王国を再び訪問してくれていたのだ。
(ああ、友よ。どうか貴女がこの後の混乱を収めてくれることを願うわ)
眼球を抉り取られ、殴り飛ばされた激痛。
そのまま意識を手放そうとして、あれ? とマーゴットはあることに気づいた。
「マーゴット!」
(グレイシア?)
グレイシア王女の必死な姿が“見える”。
彼女の国、アケロニア王国は軍装が正装の国だ。女性が他国の式典に参列する場合でもドレスは纏わない。
王族の正装である、黄金のオリハルコンの装飾付きの黒い軍装。それが彼女の姿だった。
長く豊かな黒髪を乱して、マーゴットの元へ駆けてきている。
その必死な顔がまだ残っていた片目に最後に焼き付いて、暗転した。
そう、同じ出来事を繰り返していたはずのその人生の最後では、マーゴットの目は片目だけ残っていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます