第3話 お供え物集め
まつぼっくりならば何処のものでもどんなものでも良い、と神様は言っていたので、啓介は花山公園のみならず学校の校庭でも集めた。ビニール袋に入れてこっそりと持ち帰り、公園の神様へお供えした。
集め始めて3日目の休み時間のことだった。この日は掃除がない代わりに昼休みが長い。たくさん集めようと、校庭の隅の築山に啓介はビニール袋を片手に気合を入れて向かった。
「啓介ー!何やってんだよ?」
ごそごそと茂みの中を探っていた啓介に、一番のなかよしの大輝が声をかけた。
「お前いっつも俺たちとドロケーするのに、最近どうしたんだよ?」
もっともな疑問だ。どうしたものかと思ったが、啓介は本当のことを大輝に話した。散々拾ってしまってもう校庭にはあまりまつぼっくりがなく、手詰まりになっていて助けが欲しかったこともあった。
「今までのお前の作り話の中では、割と面白い方だと思うよ。」
しょっちゅう作り話をしている啓介の言葉は信じてもらえないようだった。啓介はオオカミ少年の話を思い出した。
「でも…お前今まつぼっくり拾ってるもんな。もしかして、それ本当?」
行動が伴うと人は信じてくれるようだ。
放課後、大輝が家の庭に落ちていたというまつぼっくりを10個ほど持ってきてくれ、一緒に公園へ向かった。
「ここだよ。俺の秘密基地。」
啓介に続き、大輝が藪の中へと入った。いつも通り神様がちょこんとたたずんでいた。
「おお、仲間ができたんじゃな。」
神様は嬉しそうににっこりと笑った。大輝は抱えていたまつぼっくりをぽろりと落とした。ぱくぱくと口を動かしているが、声は出ていない。
「驚きすぎだろ。さては、お前、俺の言葉信じてなかったな。」
「…ま、まあ、半分疑ってた。」
絞り出すように大輝が答えた。
神様は啓介たちが持ってきたまつぼっくりを数え、満足げに頷いた。そして、集めたまつぼっくりの山に両手をかざした。まつぼっくりが光り輝いたかと思うと、消えてしまった。
「よしよし、これで整った。じきにこの場所に変化が訪れよう。楽しみにしておれ。」
神様の言葉通り、公園の拡張工事が次の日から始まった。
啓介と大輝は時折公園に来ては、工事の進捗状況を眺めたり、二人では窮屈な秘密基地へと入り込みお供え物を眺めたり、神様と話をしたりした。
「本当に公園が変わるんだね。」
「おもしれえなぁ。」
驚き感心する啓介と大輝に神様は満足げにうんうんと頷いた。
数週間で、広くなった公園の片隅に東屋が建てられた。お弁当を食べたりお茶をしたり、遊び疲れた体を休めたりするにはちょうどよさそうな場所だ。
東屋が完成した次の日、秘密基地で神様が言った。
「次なんじゃが、オレンジ色の葉っぱを150枚集めてくれんかのう。」
啓介と大輝はもちろん、と頷き葉っぱ集めに奔走した。あっという間に集め終わると、今度は公園がさらに広がり大きな池が作られた。池にはコイが泳ぎ、カモが水面を滑るように進んでいく。時々パンの耳をあげる人がいた。
「今度は、丸い石を200個お願いしたいんじゃが。」
花山公園ではもちろん、他の公園でも校庭でも探し回り、啓介と大輝は石を集めた。今度は公園の遊具が新しくなり、立派になった。小さな子供も楽しく遊べるようになり、母親たちの交流の場となった。
公園を訪れる人はどんどん増えていった。以前は寂しく、少し怪しげな雰囲気さえ漂っていたが、今は人々の笑顔があふれる温かい場所になった。
神様の感謝の言葉と公園を訪れる人々の笑顔は、啓介と大輝を誇らしい気持ちにさせた。
啓介たちは知らなかったが、彼らの住む町は、近年人口が増加していた。そこに目をつける不動産会社は少なくない。花山公園は、駅から程よい距離にある公園だ。そこを人の住める場所、マンションにしてしまえば間違いなく売れる、と大手企業は目論んでいた。
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