短い世界

秋梨夜風

死に急ぎ

 あんまり世の中がつまらな過ぎて、生きている時間が長く感じる。

苦痛だから自殺に最適な方法を探してみた。


 飛び降り、入水、樹海で首吊り……ここら辺が自然に返って死ねるって感じで

リスカ、服毒、練炭、電車飛び込み……こっちは文明の利器を頼った感じ。


 他人様に迷惑を掛ける方法はやめとけって言われてたから、逆に他人様を幸せにして死ぬ方法を考える。


 紛争地帯の救護班とか地雷処理とか、誰かを救いながら死の危機に瀕する様な仕事……けどこれは、長い事やらなきゃ死ねなそうだし、仕事のスキルを覚えるのも時間が掛かり過ぎるから却下。


 連続殺人犯みたいな、犯罪者に罰を下す私刑人みたいなことやってみようかって考えけど、捕まったら逆に自分が死刑だ。それは怖いし正義ぶった犯行で下手に情状酌量されてただ刑務所暮らしになるのも嫌だからやっぱ無し。


 何にも思い浮かばない、いっそのこと死神にでも見染められはしないか……


 そうして無意味な思考を繰り返してダラダラと日々を過ごしてたら、好きな人が出来てしまった。そのコがまためちゃくちゃに可愛い。考えているだけで胸が苦しくなった。


 調べてみると、キュン死なんてものがあるらしい。よし、俺の死に方はコレで決まりだ。

 やっと死に方が決まったと喜んだのも束の間、よくよく調べてみると


“キュン死に必要なのは相手のキュンとする仕草”


とある。


 現状、俺は惚れただけ。キュン死するにはお近付きにならないと!急いで連絡先を交換し、メールで軽くやり取りしてからデートに誘うと二つ返事で了承された。


 デート当日……帰宅。

こんなに早く時間が過ぎるなんて!なんか良い匂いしたし死因になりそうな仕草ばっかだったけど全部可愛過ぎて死にどころが決められん!!!あ、連絡きた


『今日は楽しかったです。またよろしくね』


 うわ、なんだよこれ急いで返信しなきゃ、


『こちらこそ楽しかったです云々……』


 暫くメールのやり取りを続け、気付けば深夜。ただ文章やりとりしてただけなのにこんなに早く時間が過ぎるのか?なんかどんどん早くなってる気が……恐ろし過ぎる、次のデートの予定が決まったと思えば終わり、また次のデート。このままではキュン死する暇も……


 目が覚めると、気付けば隣に愛しい彼女。並んでベッドに横たわる。

予想通り、長く二人で過ごしたせいで時間が早く進み過ぎたらしい。もう年老いて死の間際。時代と共に技術も進み、スイッチひとつで同時に旅立てる機械があった。

「楽に死ぬ夢は叶えられたが、俺はお前を道連れにしてしまったなぁ」

 ぼやいていると寄り添う息子、娘の夫婦が伝えた。

「なに言ってんだよ。父さんは、母さんが病気で苦しむのに耐えかねて添い遂げるって決めたんじゃないか」


 あぁそうか、俺が惚れた相手は……


気付いた時、死神はスイッチを押した。

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