第12話 屋上にて

今日は世間的には何もない日ではあるが、俺からしたら‪”‬覚悟‪”‬の日である。


「な、なにかな?」


 俺は、今日人生が変わるかもしれない。目の前には、いつも一緒に居てくれる幼なじみの彼女。

 改まって、学校の屋上に呼び出した。今の時代に手紙で。

 そんなことはいいんだよ。俺は深呼吸を大きくひとつして、目の前の彼女を視界に捉える。

 今日こそ言うんだ。俺は10年以上、今のこの気持ちの形が分からなかった。でも、あの日。車に轢かれそうになった彼女を咄嗟に助け、無事だった時に見た彼女の安堵した顔が頭をよぎる。あの時、彼女を護れたからこそ、大切にしたいって気持ちが分かったんだ。


 そこから半年、少しでも変わろうと、筋トレしたり、服に気を使ったり色々した。彼女とは友達を通り越して、家族みたいな関係だったから。今日もしかしたら、その関係が変わるかもしれない。


「あ、あのさ……」

「な、なに? 私をここに呼び出して……」


 お互いが静かになる。

 まるで世界が止まったかのような沈黙だった。

 だが、その世界を動かしたのは俺からだった。


「伝えたいことが! ある!」

「はい……」


 俺は1歩、物理的に1歩踏み出す。

 そして、今まで言えなかった言葉を発する。


「貴方が好きです!」

「ごめんなさい!」


「へ?」

 

 え? 今……。今の返答って俺振られた?

 彼女は申し訳なさそうにしている。ずっと地面を見て、こっちに目を合わせてくれない。


「あのさ、なんで振られたかだけ聞けたりしないかな?」

 彼女は俯いたままで、地面に言葉を投げるように発した。

「だ、だってさ。確かに君と付き合えたらなんてと思ったことはあるよ。あるんだけどさ、私よりももっといい人はいると思うんだ」

 俺はゴクリと息を呑む。彼女は言葉をゆっくりと吐き出していく。

「私はいつも君に助けられてばっかりで。幼い頃からいつも一緒にいるから、私も君を家族同然だと思ってたよ。でもね、それが変わったの。半年前の出来事で」

 あれ? 半年前……。それってあれしかないよな……。

「交通事故に会いそうになった時か?」

「私が轢かれそうになった時に……ってあれ?」

 同時に放った言葉で、彼女は、自分の言葉を止めた。

「なんで、その出来事覚えてるの?」

「いや、あんなこと滅多にないから覚えてるよ」

 

 俺は、もう振られた身。隠すことなんてバカバカしいと思っていた。

 

「俺も、その出来事で変わったんだよ。今まで、お前に抱いていた感情の答えがそこにあったんだから」

「私も変わったんだよ。あの出来事で考えていたことが……」


「なんて思ったんだ。俺でよければ聞かせて欲しい。最後に」


 そう言うと、彼女は震えていた。その地面には小さな跡が生まれている。彼女はポロポロ泣いていた。

 俺は、それを見て慌てふためく。


「おいおい、なんで泣くんだよ」

「だ、だって。最後だって言ったから。でもその通りなの」


 彼女は、口を1度結び直してから、大きく深呼吸をする。


「私にとって、貴方は、傷つけたくない、傷を負って欲しくない大切な人だってあの事故で気づいたか……」


 俺は、彼女が言い切る前に抱いていた。

 彼女の不安をかき消すように、優しく、肩に、腰に手を当てていた。

 そうすると、彼女は俺に身体を預けてきた。そしてえんえんと泣いていた。


「あ、ありがと……。もう大丈夫」

「本当に?」

「うん、本当に」


 あれから俺たちは少しの間抱き合っていた。その後に正気に戻り、屋上の入り口付近で体育座りをしていた。ただ、違っていたのは、彼女と手を繋いでいたってこと。


「わ、私でいいの? 本当に」

「君じゃなきゃダメなんだけど?」


 俺はそう言うと、彼女はポンっと顔を真っ赤にして爆発する。可愛くて抱きしめたくなるけどここは我慢だ。


「は、はい……」

「いつもと違うよな。感じがさ」

 そう言うと、俺の方に前のめりになって、ポカポカと叩いてくる。


「当たり前じゃん! バカ! 私も混乱してるんだよ」

「わかったよ。ごめん」


 そう言うと、元通りの体育座りに戻って、再度俺の手に自分の手を重ねてくる。


「なんだろう。心から幸せな感じがする」

「俺もだよ」


「ありがとう、これからもよろしくね」

「例を言いたいのはこっちだ。こちらこそ、よろしく」


 2人で空を見上げる。

 なんだか、普段よりも太陽の陽射しが眩しい気がした。

 

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