純白の新歓合宿5
俺が、2回目に店を訪れてより1週間が経過した。
ここは、俺たちの通う大学から電車で2時間、バスで1時間ほどする場所であり、周囲には無造作に雑草が生い茂ってはいるが、綺麗に区画で分けられているシーズン終わりの水田と、木造のでかいお屋敷が何軒かポツンと建っているのみである。
「それでは皆さん、私たちから離れない様について来てくださいね。あともうちょっと歩けば、そこが本日私たちが泊まる合宿所になります。新歓合宿開始まであと少しです。頑張りましょう」
凸凹の砂利道などお構いなしに、俺たち30人近くの先頭を歩くのは、俺をこの「蝶の会」に引き入れた「桜」張本人である。桜は、右手に持った、蝶、と書かれた白い小振の旗を掲げズンズン前に進んでいく。その後ろに続く様に、俺たち「新入生」10人は周囲を、蝶のペンダントをぶら下げ、やたらニコニコとした薄気味悪い連中に取り囲まれながら舗装されていない小道を歩いて行った。
新入生の中には、店で俺と同じ様に勧誘を受けていた、丸メガネ君もいた。丸メガネ君は、肩からぶら下げたショルダーバッグの肩紐を両手で握りしめ俯きながらついて来ている。握った拳には血管が浮き出て、額には季節はずれの汗をじっとりと浮かべている。どうやらこいつも、俺と同様、「蝶の会」が主催する「新歓合宿」に参加していたのだ。あいも変わらず、おどおどとしており比較的暗めの参加者の中でも一際陰湿な雰囲気を漂わせていた。
「君もこの新歓合宿に参加したのかい?俺はタクヤ。大学では古典を専攻してるんだけど」
どうやら俺は同じ参加者の男に話し掛けられているらしい。丸メガネ君を見ていた視線を戻し、俺に話しかけてきた方に顔を向けると、そこには痛みまくりの茶髪にぐちゃぐちゃのヘアセットをしている中肉中背の面長男が立っていた。こいつは、たしか最初の新歓合宿集合時にやたら女に声をかけていた奴だ。まあ、相手にはされていなかったが。なんというか、その頑張っている風な奴である。
「俺はイヅル。このサークルには少し興味があってね。そっちは?」
「おうイヅル、よろしくな。俺はもちろん・・・。」
そう言ってタクヤは下衆な笑みを浮かべて、俺たちの周囲を取り囲んでいるサークルの女達に目をやった。猿だな。
ちなみに、この俺たちの会話が参加者同士の初めての会話であった。参加者は全員学生と思われる男であり、そのほとんどがエンジョイな学生生活に精を出しているとは思えない奴らばかりである。もちろんタクヤもその内の1人だ。こいつも俺と会話している今、かなり無理しているのだろう。最初に身の丈に合わないスタートダッシュを決めてしまった者は、その最後までピエロを演じ続けなければならないのだ。笑顔、若干引き攣ってるがな。
でも、世の中の学生なんて皆んなこんなもんだろ。誰だって、思い出したくない酸っぱい時代なんてもんは経験するもんさ。正解、不正解なんて今の俺達にはないのだから。
だから、というわけではないが俺は目的地にたどり着くまでの間、タクヤと他愛もない会話をしながら暇を徐々に昂る緊張感を紛らしていた。
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