第38話 世界の門
魔獣———アビスノヴァと化したバリーは肉体が人間の物から魔人の物に変質し、感覚が鈍化していた。
だが、それでも再び立ち上がった
『何かある、警戒しろ。リチャード』
『わかっています!』
水龍と化したリチャードが頬を膨らまし、
『
超速の水流ジェットを叩きつける。
現実世界にはウォーターカッターというものがある。少ない面積で超速噴射される水の水圧は、金属さえも切断する力を有する。
リチャードが吐き出したのはそれと同等の———ダイヤモンドすらも切断する水流だった。
が——————、
〝オウカ〟の右手がリチャードに向けられ。
煌めいた。
「なッ⁉」
超高速の水流が割れた。
割っているのは光の軌跡。
リチャードの貌が驚愕に歪められ、
「ガ—————————————————ァ⁉」
喉を貫かれた。
貫いたのは、光の剣。
〝オウカ〟の右手には———どこまでも無限に伸びゆく光の剣が握られていた。
〇
融合魔法———『
ローナの光魔法とトゥーリの斬撃魔法を、〝オウカ〟のコアで融合させた、全く新しい魔法だ。
「一体目!」
光の刀身はまばたきもしない速さで伸び、水龍の喉元を抉った。
殺した。
「…………ッ!」
殺し合いなのだ、仕方がない。
「次は……バリーだ」
光の剣を振り回しやすい、〝オウカ〟の体長の半分ぐらいまでの長さに縮ませ、魔人と化したバリーを見据える。
光剣魔法。
ローナとトゥーリの融合魔法。
これは黒炎のバリーに通じるのだろうか。
「行こう————!」
「ええ—————!」
バリーに斬りかかった。
ボッと音がして、魔人に当たった個所が黒炎と化してすり抜ける。
やはりダメか—————!
『甘いんだよ!』
バリーの声だ。
「何で⁉」
「念波の魔法よ。バリーが思念波を飛ばして話しかけてきているの!」
トゥーリが解説する。
『リチャードをよくもやってくれたなぁ! 結局はどちらかが倒れるまで戦うしかないとお前自身が示しているじゃないか!』
「そうじゃない!」
『何が違う! 所詮この世には、生き物って言うのは戦うしかない生き物なんだよ!』
〝オウカ〟と魔人バリーの攻防。
バリーが雑な蹴り殴りを繰り返し、そのたびに光剣で防御する。
隙だらけのところを攻撃するが、相手は無敵状態と言える黒炎の体だ。隙を見つけたところで、相手に攻撃が通じずからぶるので、逆に攻撃を仕掛けるとこちらに隙ができてしまう。
結局はまた———防戦一方だ。
恐らくやろうと思えば、バリーは一瞬で俺たちを倒せる。それをしないのは、完全にこちらを舐め切っているからか。
それとも———、
「生物は生きている限り戦わないといけない。だけど、人間どうしで命を奪い合うことはない。無暗に人の命を奪う必要なんてない!」
『たった今ぁ! お前がやったことだろうが!』
「違う! 例えバリーにそう思われていようと、俺は自分のやり方を貫く! 結果は全部終わった後、示してくれるから!」
『何を言っている⁉』
「……諦めないってことを言っている!」
状況は———悪い。
諦めない。
その言葉は口にしたが———バリーに勝てる打開策はまだ見つけられていない。
どう……しよっかな……。
頬を汗が流れ落ちる。
「二人とも……いつまでこんなことをやってるの?」
トゥーリの声だ。
生きるか死ぬかの瀬戸際だと言うのに、嫌に冷めている。
「こんなことって、バリーを倒す方法を思いつくまでだよ…!」
バリーの上段蹴りを交わしながら反論する。
「二人とも本当に気が付いていないの?」
一方でトゥーリは呆れたような声色だ。
「何を⁉」
「バリーを退けるだけなら、あなたたちはその方法を持っているでしょう?」
「「———は⁉」」
「ビフレストの欠片」
トゥーリは言い放った。
「ローナと藤吠牙。この現実世界でも、異世界でもビフレストの欠片を持っているのはあなたたちだけなのよ?」
「———ッ!」
ローナがハッとしたように息を飲んだ。
「何だ⁉ 何がわかった?」
「世界を渡るには、それだけの魔力を使うにはビフレストの欠片が必要なんです。ビフレストの欠片はすなわち———世界樹の種。
世界を渡るには世界樹の力が必要なんです!」
「だから⁉ …………ッ!」
————わかった。
「異世界の世界樹は枯れかけています」
「うん!」
俺は、〝オウカ〟の剣を天へと向けた。
『何をするつもりだ?』
「お前を倒す———必要は、ない!」
光の剣で円形を描く。
剣の軌道に光の奇跡が描き、宙に光のサークルが作り出される。
そのまま———サークルの面が虹色に輝き、別の世界を映し出す。
『ヴァランシア王国か⁉』
異世界の、バリーの故郷の光景だった。
『まさか———世界を繋げたのか!』
その———通りだ。
「
異世界への扉。
バリーの体はそこへ向かって吸い込まれて行き、
『き、きさまらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! こんなことをしたところで無駄だぞ! 俺はすぐに戻って』
「来れない! 世界を魔法でつなぐ世界樹は———枯れかけているからな!」
『———ッ!』
魔人の貌に表情はない。だが、バリーの体が完全に固まり、彼の動揺を感じた。
バリーが光の淵にしがみつき、何とか吸い込まれまいとする。
「世界樹を再生させなければ、現実世界への侵攻も不可能ということだ!」
世界改変魔法・ユグドラシルは発動している。
だが、現実世界の物質を異世界のものに変換するには、破壊活動と
そのために尖兵を送り込まなければいけないが、異世界と現実世界の扉がそもそも繋がってなければ、発動していたとしても影響はない。
『軽率な結論だな! ユグドラシルは発動し続ける。例え、この世界に魔物が現れなくてもじわじわと侵食していく! どちらにしろ無駄なんだよ!』
「無駄かもしれない。だけど、まだそれはわからない。ギリギリまでどっちの世界も生き延びれるような方法を考えて考えて、自分が納得する答えを見つけ出すさ!」
『妥協するに決まってる……そして、どちらかを滅ぼすんだ。そうなる日を待っているよ……』
バリーは、自嘲気味に笑いながら言う……。
何だか、
何だか、
「……そんなこと言わずにさ、お前ももう一度考えてみろよ。〝英雄〟なんだろ。みんなが最後に笑い合える日を、一緒に目指してみようぜ。今度こそさ」
悲しくなった。
悲しくなって、バリーに向かってもう一度手を伸ばした。
が————、
『…………さよならだ』
彼は一瞬、手を伸ばしかけたが、引っ込め、
異世界への門が————閉じる。
「バリー……」
敵は———いなくなった。
止まった時の世界。
笹塚の街はまだ崩壊したままで、水龍はまだ大地を砕き横たわっている。
「終わったわね。ビフレストの欠片を使って再生させて」
「ああ……」
トゥーリが急かすが、
「その前に」
俺は、喉を突かれて血を流すリチャードの死体の元へ歩み寄る。
「何をするつもり?」
「俺なりのやり方を———示すつもりだ。ローナ、俺のやりたいことはわかっているよな」
「ええ、キバ君」
俺の胸、ローナの体の中にあるビフレストの欠片が呼応し、〝オウカ〟の体が輝き、どんどん輝きは増していく。
「
止まった世界で破壊されたものが修復されて行き、元に———戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます