第26話 トゥーリの夢

 『マリア・トーボエ』


 ヴァレンシア宮殿の裏の霊園に、彼女の墓石はある。

彼岸花に包まれた彼女の墓石の前に、藤吠双臥の体は横たわっている。安らかな死顔で———。

「藤吠双臥は世界改変魔法の愚かさをわかっていた! こんなことをするべきじゃない!」

 宮殿内部からはトゥーリの声が響く。

「トゥーリ。お前は魔族だ」

 バリーが手をかざすと、トゥーリの前に魔法陣が展開され、姿が変わる。

「ああ……!」

 背中に悪魔の翼が生え、しっぽが出現する。八重歯も鋭くとがり、半人半獣の姿となる。

「俺たちの世界の住人だ。どうしてそこまでこの世界の人間に加担する。俺たちの世界は滅びに向かっているんだぞ? ただの義憤か? それだけで、異世界を見捨てるのか? なんてひどい女なんだお前は。自分が優しいつもりか?」

「……何て言われようと、かまわない。それに私は———自分が優しい人間のつもりもないし、頭がいい人間のつもりも———ない。ただ、この世界が好きになっただけよ」

「どうして? そこまで好きになる理由があるか?」

機神きしんって何をモデルに生まれたか知ってる?」

「は?」


「———この世界のスーパーロボットよ」

 

 バリーとリチャードは話が変な方向に向かったと眉をひそめる。

 対するトゥーリは得意げだ。

「ヴァランシア王国にソーガ・トーボエが現れたのと同じように、魔王の城にも現実世界の人間は迷い込んできた。彼はこの世界でオタクって呼ばれる人で、この世界のありとあらゆるエンタメイトを網羅していた。そいつ———どうなったと思う?」

「何を嬉しそうににやけている。そんなどうでもいい話をして何になる?」

「どうでもよくなんかないわ。そいつはね、魔族を変えたのよ。ワクワクっていうモノをくれたのよ。


 スーパーロボットに戦う主人公たちがどれだけかっこいいか。どんな逆境があっても意思を貫く魂が、どんなに人を熱くさせるのか。


 特撮の主人公たちがどれだけ勇気を与えてくれるのか。過酷な世界でも優しさを貫き、人を愛することがどれだけ尊いことなのか。


 エロゲのヒロインがどれだけ胸をトキめかせるのか。叶わないとわかっていながらも愛する切なさがどれだけ人の心を動かすのか。

 この世界のエンタメイトは素晴らしいわ! あんな創作物、ただ権力者の考えに従うだけの異世界人には作れないわ! 


 私はこの世界で真のオタク―――ハイパーオタクになるためにあんたに歯向かっているのよ! 何か文句があるの!」


「……クッアッハッハッハッハ‼ 薄い、本当に薄いい理由だ! そこまではっきり言われると気持ちがいいな。本当に薄っぺらい理由だ!」

 バリーは声を上げて笑い、リチャードもクックックと含み笑いをしている。

「俺は大義のために動いている。その大義をただの娘のわがままでつぶすわけにはいかん。それに……お前が命を懸けてまでこの世界を守る価値が本当にあると思っているのか?」

「さっきどれだけある理由があるのか、力説したつもりだけど?」

「藤吠双臥が俺たちの世界に来たきっかけの〝死の真相〟つまりは死因なんだが———あいつが死んだ理由って言うのがな、〝自殺〟なんだよ。 


 ———あいつは自ら選んでこの世界を捨てたんだ」


「自———殺———?」

 トゥーリの瞳から光が消える。

「バリー、お話し中すいません」

 二人の会話にリチャードが割り込み、「見て欲しいものが」とスマートフォンを差し出す。

 その画面には街を走り回っている機神きしん———〝オウカ〟の姿がある。

「これは?」

「この世界の通信端末です。どうやら人々の見ている光景を共有できるようで———」

「〝オウカ〟が、こっちが探すまでもなく出たってことか……」

 バリーは缶ビールを蹴り飛ばし立ち上がった。

「リチャード」

「ハッ」

 一礼したリチャードは闇に紛れて消えていった。

「あの……バカッ……!」

 トゥーリは画面を見ることはできないが、何が起きたか、二人の会話で察した。

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