第14話 ———恐怖

『逃げるの⁉』

 その返答は頭の中ですら作れなかった。

 考えられない。冷静に考える暇なんてない———!

 皆を守ると息巻いておきながら、いざ傷つくとわが身を最優先し、脱兎のごとく逃げ出している。

 本当に……情けねぇ————!

「…………ッ!」

 ある程度走ったところで立ち止まる。

 冷静になった。 

 やっぱり———俺は脅威が目の前にあればパニックになるし、女の子に助けを求められて逃げ続け・・られるほど、臆病者でもないらしい。

 いわば———凡人か。

 痛みで頭が混乱し、やるべきことを理解はしていても、実際の困難さに心が折れていた。それでも、立ち向かわないとようやく自らを奮い立たせ、足を止め、

「とりあえず———」

 想像する。

 胸の装甲が開くイメージ。すると、〝オウカ〟は応え眼前の装甲が開き、外気が入り込む。その風とそろってローナとトゥーリが戸惑いの声を発しながら中に入って来て、

「外にいたままだとろくに戦えない! 中に入ってくれ!」

「あ———」

 トゥーリが何かに気が付いたかのように声を上げた。

 視線は俺の後ろに注がれている。

「何⁉」

「〝オウカ〟のコアが反応していない……どうして? 無理やりローナが権限を渡したから……?」

 トゥーリの視線の先を辿る。

 そこにあったのは、巨大な宝玉だった。パールのような真っ白な宝玉。ただ、どこか表面がくすんでいた。長年放置されていないとこういう濁り方はしないが、何となく———本当に感覚的な話だが、その宝玉自体が力を失くし、輝くことができない状態にあるように感じた。

「この玉……コアってことは……」

「本来なら、これに魔力が反応して輝き、〝オウカ〟は力を発揮するの。だけど今は輝いていない」

 トゥーリが爪を噛む。焦っている様子だ。

「俺がこの世界の人間だからダメなのか? 魔力がないから?」

「さっきまで動いていたでしょ? だから、あんたに完全に魔力がないわけじゃないんだと思う。本来だったら、魔力がないと動かすこともできないはずだから」

「ちょっと待ってよ! どういうことだよ! 混乱してきたぞ!」

「私はもう混乱しているのよ! 整理しながら喋ってるから黙ってて! 多分……多分だけど……ローナがあんたを守るために〝オウカ〟の権限を委託した。

 その時にローナの魔力が移されているのよ……それで……」

 トゥーリがハッとした顔をする。

「ローナ……あんたまさか……!」

「…………」

 トゥーリはローナを睨みつけるが、ローナは不貞腐れた様に唇を尖らせていた。

「あんたが魔法を使わない理由、わかったわ。この藤吠牙に全部注いただのね。あなたの魔力を」

「え———?」

 注いだ? 魔力を?

「どうして、そんなこと?」

 もしかして———あの時、新宿の上空で俺を助けた時————、

「俺が一度死んだからか?」

「ッ⁉ ご主人様は気にしなくていいの! 守り切れなかった私が悪かったんだから……ご主人様が死ぬ前に〝キメラレッド〟を倒しきれなかった私が」

「…………」

 雰囲気を壊すので黙っていたが……あの赤い獣の名前ダサいな……。

「でも、それだけ俺のために尽くしてくれるなんて。力を失ってまでも……どうして? どうしてそこまでするんだ?」

 初対面のはずだろう。

 あの新宿の上空で巻き込んでしまったその贖罪? なら、どうして山中はすでにこの世界にいない? 

 明らかに俺だけ特別扱いされている。いや、ローナの口調からは俺を目的にあの新宿の街に〝オウカ〟で現れたようなことを言っている。どうして……。

「……覚えていないの?」

 トゥーリが問いかける。

「覚えて、って何をだ?」


 ドォォォォォォン……‼


 議論の時間は終わりだと言うように爆音が響いた。

 マックスが爆撃が地面に落ちたのだ。

「今はそれどころじゃない! とにかく戦って!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る