第21話 烟る平常、飛び立て乙女③
「あ、信用してないでしょ。だったら……うーん。今、
「えっ! ほんとにわかるの?」
スラチンの言うことが事実なら、尋成は飛行機に乗ってどこかに高飛びしようとしているんじゃないかしら。さすがにダンジョンの外でドラゴンなんて飛んでやしない。
「細かい場所とかは遠すぎてわからないけどね」
なるほど。日本を出国されたらお手上げね。てかこの地域にいないってだけで追いかけるのはかなり無理がありそう。私、異動は地域内だけっていう採用形態、いわゆるエリア採用だしな。
……いや、関係ない! 世のため人のため乙女のため! 何より100万円騙し取られた私のため! 地の果てまで追いかけてぶっ殺すと決めたのよ!
「スラチン、あんたが有用な案内人ってことは認めてあげるわ」
オセの言ってたことってこのことか。悪魔の予言通りにことが進むのは気に食わないけど、私の恩讐を果たすためにはしょうがない。
「とは言えこのまま外に連れてくわけにはいかないしな」
ダンジョン外に魔物を連れ出すのは法律で厳しく取り締まられている。私たちの世界の生態系維持や破壊の抑制、とにかく秩序を保つためにね。
顎に手を当てて思案してると、あの悪魔の瞳と同じエメラルドグリーンが小指の上で怪しく輝いた。確か私の姿を望む姿に変えてくれるって言ってたな。……これでスラチンを変身させられないかしら。ものは試し。
「スラチン、ちょっとじっとしてて」
私は小指を包み込み、誠実そうな凛々しい男の姿を想像した。おおった掌から緑色の光が漏れ出し、指輪が能力を発揮していることが伝わってくる。
私の姿を変えようと光は徐々に強まり、緑のベールが全身を包み出す。変身してみたい気もするけど、そのまま光を受け流して
(え、え! ヘリヤ何これ?)
緑のオーラを纏って戸惑うスラチンをよそに、私は今は亡きある俳優の姿を連想した。頼む、奇跡よ起これ。
(ふわーっ!)
セーラー服を着て戦う某美少女戦士たちの変身シーンのように、スラチンの体は目だけ残して虹色に輝いた。形がぐにゃりと変形し人の体を模っていく。
「……こ、これは」
光が弾けるとともに、そこには短く刈り込んだ黒髪と一文字の眉毛がが凛々しい、背広を着た熟年の男性の姿が。そう、私がイメージしたのは伝説的俳優、
「すごい! 僕人間になったよ! 視線高い! でも手足があるってなんかバランス悪くて落ち着かないな。あーとにかく新鮮―!」
スラチンは首をふりふり、自分の体のあちこちを確かめるように観察している。そして己を観察するスラチンをさらに観察する私。
「あ! チンチン! チンチンついてるー!」
自分のナニを握り締めてはしゃぐ高倉健。どうやら私の目論見は大きく外れたようね。
「……下品」
エイルはその様子を冷め切った目で一刀両断した。やっぱりそうよね。変身した外見に引っ張られてちょっとはマシなオツムになるんじゃないか、そう期待しての超硬派・高倉健チョイスだったのに全然効果なし。しかもなぜかスラチンの無駄に可愛い目だけそのまま残って気持ち悪い。
「げ、下品だなんてひどいエイルちゃん。僕はずっと不思議に思ってただけなんだ。チンチンと金玉っていう急所をぶら下げて歩くスリルはどんなもんだろうってね。だって金玉なんて内臓じゃん? それを足の間にぷらぷらさせて――っぎゃふ!」
その内臓に少し黙ってもらえるようお願いした(金的をお見舞いした、とも言う)。
いやしかし発見もあった。コンダクターの鎖は私に対する魔術的効果をコンダクターに移せるらしい。逆もあり得るのかしらね?
ついでに人間に変身したスラチンはもちろん声帯があるわけだから、普通にしゃべれちゃう。スラチンの破廉恥トークにエイルを巻き込んでしまうのがなんとも心苦しいわ。
とにかくこれで3人揃って地上に出られる。どうやって尋成を追うかは業務後にでもじっくり考えよう。
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