第41話 白いポピーに包まれて10 sideS

 それからは、とんとん拍子で、昴の計画は進んでいった。天音の心身が疲れていたのが幸いし、スイスへの留学についてすぐに受け入れられたようだった。


 天音から直接、留学についての話を聞いた時は、きっと悲しむことが正解だったはずなのに、それよりも嬉しさが上回っていた。必死に悟られないように装った記憶がある。


 昴自身、この時、感情がコントロールできなくなっていたのだろう。自分は何をしようとしているのか、どこへ向かっているのか、わからなくなっていた。天音を守りたいはずなのに、目的はいつの間にか天音を日本から追い出すことに変わっていた。




 


 昴は、翼がいなくなったことで、失ったものの大切さを知ったはずであったのに、昴は、再び、自らの手で同じ過ちを繰り返した。


 




 天音を空港に送り、飛行機の離陸を見守った後は、達成感と喪失感が同時に訪れた。


 もちろん、喪失感の方がはるかに大きかったが、昴は、これでよかったのだと思う。


 全ての者が離れ離れになりゼロに戻れば、新たな生活が始まるはずだった。翼や天音のいない生活に慣れ、辛い気持ちも忘れ、きっと自分自身にも幸せが訪れるのだと信じたかったが、現実は違った。


 生活は、急に変わるわけはないし、孤独感だけが残った。


 




 そんな時、あいつに出会った。天音にとっての最重要人物である“庵原凛太朗”だ。


 彼は、学校のある時間帯であるにも関わらず、公園にあるベンチにただただ何もせず座っていた。直接的な面識はなかったが、天音から何度も写真を見せられたこともあり、彼の顔は否が応にも記憶に残っていた。




 「お前、こんなとこで何してんだ。」




 吸い寄せられるようにして凛太朗に近づき、声を掛けた。




 「……あの日の選択肢を考えていた。いや、あの日だけじゃない。僕は、どこで選択を間違えたのか。」




 凛太朗は、昴と話すのは初めてで、急に話しかけられたにも関わらず、淡々と答えた。昴が来ることを知っているようだった。




 「もう、僕には、資格がない。このまま―――。」




 「なら、俺と来い。お前は、今、人生のどん底だろ。最愛の者のために他人を傷つけ、挙句の果てに独りになった。……お前なら止めることができたかもしれねぇのに。」




 昴は、だいたい予想がついていた。人から聞いた話を繋ぎ合わせれば、ぼんやりと見えてきたのだ。知ってしまった以上、放っておくことはできなかった。すべての事件の種は、昴が撒いていたのだから。

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