第30話 運命の悪戯14
夏休みを迎え、天音の旅立つ9月まで刻一刻と時間は迫っていた。天音の通う私立高校は、夏休みは8月末にある1週間と少しだけだった。それは、進学校であるということもあり、学力向上に力を入れているからであった。天音と凛太朗の関係は、特段変わることはなかった。留学する事実がまるで嘘であるかのようにも感じるほどだ。実は、天音が留学するのは全て夢で、このまま日本で過ごすことになるのではないのか、と思うほどであった。しかしながら、帰宅すれば、引っ越しの準備に追われるので、そんな考えは束の間だった。
「天音、荷物あまり送りすぎると費用かさむぞ。要らねぇものは捨ててけよ。」
手伝っているのは、昴だった。荷物が元々少ないからと地道にまとめていた天音だったが、昴にとっては、全然できていないように見えたらしい。昴が触っても差し障りがないであろう書籍類を箱に詰めている。一方天音は、日本に居る間は着ないであろう衣類を箱に詰め、不要なものはゴミ袋に放り込んでいた。
「捨ててるよ。こうやってみると着ない服、多いかも。断捨離だね。」
「……下着捨てる時は、ちゃんと刻めよ。」
言いにくそうに昴が言う。
「大丈夫だよ。心配性だな。別に下着とかもう捨てるやつだから盗まれてもいいよ。」
「いや、お前危機感無さすぎだ。……もう守ってくれる奴いねぇぞ。」
「凜ちゃんのこと言ってる?そうだよね、それは思う。もっと気を付けた方がいいよね。」
「翼も俺もいねぇし。お前が心配だよ。」
「心配しすぎだよ。あっちには家族いるし。でも、淋しいけどね。……今から行きたくないって言ったら、行かなくて済むのかな。」
消え入りそうな声で言うと、昴は返答に困っていた。
「……それは、無理だ。お前は、行くべきだよ。ここにいるべきじゃない。」
「……誰も引き留めてくれない。凜ちゃんも、昴も。どうして。」
目頭が熱くなり、生暖かいものが頬を伝う。昴に悟られないように、天音は、昴に背を向けながら荷物を分け続ける。
「お前を想ってのことだろ。一生の別れじゃねえんだから。」
ぶっきらぼうに昴は言う。天音は、鼻をすすりながら答える。きっと昴はもう気付いているだろう。
「……翼に、最後に会えないかな。」
「俺も会いてぇよ。そして、ぶん殴ってやりたい。」
昴は、そう言いながらも絶対そんなことはしないんだろうな、と天音は思うのだった。
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