第55話 テルマイヤー侯爵家への対策2

「お、奥様、私はしがない商人のナイトーと申します。ナイヤという奥様のお兄様に似ているだけでは?」


 ターナ義姉ねえさんの言葉にナイヤさんは慌てて否定したけどアッサリとそれは崩されたよ。


「嫌ねえ兄さん。暫く会ってなかったから忘れたのかしら? 私は人の魔力を見る事が出来るって。だから私が人間違いをしない事は兄さんも知っているでしょう」


 そう言われてガックリとするナイヤさん。そして、開き直ったのか僕を見て喋りだしたんだ。


「ハアー、まさかターナが居るとは思わなかったけど…… ターナにバレるのはしょうがないとして、ハイナイト伯爵、何故私がナイヤだとお分かりになったのですか?」


 はい、やっぱり聞かれますよね…… どう答えようか悩んでいたら、またターナ義姉ねえさんに助けられたよ。


「兄さん、トーヤくんも私と似たような能力を持ってるんだと思うわよ。人の能力を詮索するのはタブーなんだから、それ以上は聞いちゃダメよ」


 そう言ったターナ義姉ねえさんは、フェルの両肩に手を置いてナイヤさんに紹介する。


「それよりも兄さん、この娘が兄さんが家を飛び出した後に産まれた未子のフェルよ。フェル、コチラは貴女の兄になるナイヤ・テルマイヤーよ。3男だけど、貴女が産まれる前に家を飛び出した人なの。だから、初めて顔合わせをするわね」


 フェルはナイヤさんに見事なカーテシーを見せて挨拶をする。


「ナイヤお兄様、初めまして。私はテルマイヤー家に4女として産まれました、フェルと申します。お兄様の事は今日、初めて知りました。お会いする事が出来て嬉しいです」


「ああ、こんな可愛い妹が産まれていたとはな。私は諸国をまわっていたから知らなかったよ。はじめまして、フェル。不肖の兄のナイヤだ。因みに血縁ではあるが、今の私は平民だからそのつもりで接してくれると嬉しいな。って、ここまでが兄としての発言です。フェル様、どうかその様にお願い致します。ターナ様もですよ」


「まあ、兄さん! そんな冷たい事を言うのね! でもダメよ、兄である事実は変わらないのだから、そんな事は私もフェルも出来ないわ」 


 その言葉にナイヤさんはガックリしている。


「さっき、ハイナイト伯爵に自慢の商品で負けるし、ターナが現れて正体がバレるし…… 今日は厄日なのか……」


 ブツブツ呟いてるけど、負けてはないんですよ、ナイヤさん。明るさだけならば確かに僕が出した最新式の方が明るいですけど、コスパで言えばナイヤさんの商品の方が上になります。恐らくは金額も。


 取りあえずハール様が強引に話を戻した。


「ウム、まあそれは後で話し合うとしてだ、ナイヤ殿、コチラの商品はいくらだ?」


「はい、閣下。コチラは手に持つタイプが小銀貨(10,000円)1枚で、頭に装着するタイプが小銀貨1枚と銅貨(1,000円)5枚になります。それに動力源である魔石はそれぞれが2個必要ですが、1個鉄貨(100円)5枚です」 


「フム、ならばトーヤよ。お主の方の商品は?」


 僕は紙に書いて答えたんだ。


【ハール様、コチラは手に持つタイプが小銀貨5枚で、頭に装着するタイプが銀貨(100,000円)1枚になります。動力源の魔石は同じく2個ずつ必要で、1個で銅貨2枚が必要です】


「良し、ならばナイヤ殿、お主の商品をそれぞれ50ずつ購入しよう。準備出来るか?」


「はい、閣下。有難うございます。明日にはお持ち出来ます。が、よろしいのですか? ハイナイト伯爵の方の商品も性能を考えれば破格の価格ですが……」


 そうナイヤさんが言うとハール様が


「トーヤの商品は逆に性能が良すぎるのだよ。採掘場はさほど広くはないのでな、ナイヤ殿の商品の方が使い勝手は良いのと、3日も持つのならば十分な能力だ。トーヤの方の商品はワシが個人的に三つ購入しようと思っておる」


 そう仰った。さすがハール様、僕の方の懐中電灯は狭い場所だと明るすぎて逆に見えなくなるんだよね。僕がウンウンと頷いているのを見てナイヤさんが言った。


「ハイナイト伯爵、有難うございます。そして、失礼な事をお伺いしますが、ひょっとして言葉を発する事がお出来にならないのでしょうか? もしよろしければ私の知人で凄腕の医師がおりますが……」


 いやいや、僕は自分の意思で喋らないだけだからそれは困るなぁ。善意で言ってくれてるんだろうけど……


「お兄様、トーヤの事ならば大丈夫ですわ。医師の方にご足労いただく必要はございません」


 良かった、フェルが断ってくれたよ。


「コラ、フェル。お前は侯爵家の令嬢にすぎないのだから立場はハイナイト伯爵の方が上なのだよ。だから、お名前を呼び捨てにしてはダメだっ!」


 あ、そう言えば伝えてなかったよ。


「兄さん、フェルはトーヤくんの婚約者よ。2人は名前でお互いを呼び合う仲なのよ」


 ナイスフォローです、ターナ義姉ねえさん。


「あ! そ、そうだったのか。済まなかったな、フェル」


「いいえ、お兄様が私の為を思って仰ったのが分かりましたので、大丈夫です」


 フェルもニッコリ笑ってそう言う。そして、何とターナ義姉ねえさんが本題を切り出したよ。身内らしい自然な切り出し方で。


「それよりも兄さん、ウチの実家が最近ひどいのよ。アチラコチラでご迷惑をお掛けしてて、でもあの件があるから王家もハール様も強く出られないみたいなの。何か懲らしめるいい知恵はないかしら?」


「ああ、そうなんだな。昔からひどかったけど、最近は更にひどいようだし…… 私もコチラに帰って来たときにひどい情報ばかりを聞いてな…… 相変わらずの事だと呆れていたんだ。

しかし公爵閣下、あの件については私が実家を飛び出す際に偽の書類と交換しておいたので、例えばらまかれても大丈夫です。本物はすべて私がある場所に隠してあります。明日、商品と一緒にお持ちして全てを閣下にお渡ししますので。

ああ、置き換えた偽の書類については信頼できる者によって疑似魔法をかけて本物らしく見せてますから、父や兄は気づいてない筈です。ご安心を。偽の書類の中身は愚兄たちの学園での成績表だったり、裏帳簿の一部だったりです。ばらまくと彼ら自身の首が締まるようになってますよ」


 凄い、既に対策がされていたなんて。でも、12歳だったのにそんな事が出来たなんて凄いね、ナイヤ義兄にいさんは。


「フム、それが本当ならば朗報だ! 明日、ナイヤ殿が持ってくる書類を確認したならば陛下にお話しに行かねばなるまいな。しかし、今日は本当に良い事尽くめじゃ! ナイヤ殿は時間は大丈夫か? ならば夕食を共にどうじゃな? 表に待たせてあるご夫人も一緒にな」


 ハール様の言葉にハッとした顔をしてナイヤ義兄にいさん。


「さすがに気づかれてましたか。王家の影の実力を忘れてましたよ。分かりました、妻を呼んで参ります」


 そう言って出ていったナイヤ義兄にいさんが連れてきた女性は並外れて美しいという方ではなかったけど、愛らしいという表現が似合う素敵な女性だったよ。ターナ義姉ねえさんと同じ位かな?


「まあ、ネリーナ、貴女、ネリーナでしょう?」


「お久しぶりでございます、ターナお嬢様。はい、ネリーナです。今はナイヤ様の妻となっております…… お怒りは覚悟の上でございます。どのような罰でもお受け致しますので、ナイヤ様だけはどうか……」


 それを聞いてターナ義姉ねえさんが怒ったように言う。


「もう、ネリーナ! 何を言ってるのよ! 私がそんな事で怒る訳ないでしょう! それに私は知ってるのよ、幼い頃から兄さんが貴女しか見てなかった事を! だからそんな事を言わないでちょうだい! 義姉ねえさん!」


「タ、ターナお嬢様……」


 ネリーナさんは感極まって泣いてしまったよ。フェルももらい泣きしてるね。けれども驚きだよ、ネリーナさん、38歳だって! ターナ義姉ねえさんより10歳も上なんだ。


「それにしてもネリーナ、貴女はどうしてそんなに若々しいの? とてもキレイなお肌だわ」


 それに答えたのはナイヤ義兄にいさんだった。


「東方の地に温泉という温かい湯が湧き出る地が多くあってな。暫く私とネリはそこに滞在したんだよ。そうしたら、ネリがどんどん若返ってな…… 私としては以前のネリーナが魅力的だったんだが、ネリが余りに喜ぶからそうも言えなくてな」


 ああ、熟女好きですもんね、ナイヤ義兄にいさん……


「アナタ、でももう少ししたら温泉の効力も無くなるから、また以前の私に戻るわ…… それでも愛してくれる?」


 おお! ココは僕の出番じゃないですか? そう思ってフェルとターナ義姉ねえさんを見たら、2人とも期待の眼差しで僕を見ていた。気づいてなかったけど、ハール様とリゲルさんもそうだったらしい。

 フフフ、僕に任せて下さい!


 僕は皆の期待を一身に背負い、鞄に手を入れて、ターナ義姉ねえさんにお渡ししたのと同じ物をネリーナさんに差し出した。


「あの、ハイナイト伯爵閣下、コレは?」


 戸惑いながらも受け取ってくれたネリーナさんにフェルとターナ義姉ねえさんが近づき、そして、別室に連行していったのは言うまでもない。

 

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