第52話 テルマイヤー侯爵家への対策

 翌朝、僕たちはつれだって馬車に乗り込んだ。フェルと顔を合わせるとまだ少し照れくさいのか、ちょっとだけ頬が赤くなっていたよ。それを見た侍女がウットリとした顔で僕とフェルを見ていたのに、僕は気がついたけどね……

 それから、ロッテンに頼むねと頷いて乗り込んだ所でローレン街長が走ってやって来て、


「りょ、領主様! コチラを!!」


 って僕に壺に入れた温泉のもとを差し出してきたんだ。


 僕の不思議そうな顔を見てハアハア言いながらローレン街長は、


「と、取り急ぎ、グレイハウ伯爵領、の温泉に、行き、しょく、職人たちに至急、で、作って、貰いま、した…… ハアハア…… ラウール様、からは、許可を、頂いており、ます……」


 フェー、それは凄い! いつの間に! それを聞いたラウールさんも、


「な、何と!! もう出来たのですかっ!! 凄い技術ですね! ローレンさん、有難う。職人さんたちにもお礼を! 戻ったらまたちゃんとお礼を致しますので!」


 そう言ってローレン街長を労っていたよ。僕はロッテンに、再度、頼むねの意を込めて頷いたんだ。


「後の事はお任せ下さい、トーヤ様」


 ロッテンは委細承知いさいしょうちとばかりにそう言って頭を下げて見送ってくれたよ。

 後からローレン街長から手紙が来て、過分なお褒めの言葉と報酬に、職人を含め調査に携わった者たちが喜んでいたって知らせてくれたんだ。やっぱりロッテンは頼りになるよね。


 そして王都に戻った僕はハール様にお会いしたいと使いを出したんだ。ハール様からは直ぐに返事が届いて、会ってくださるというので僕はハール様のお屋敷に向かったんだ。フェルも来るって言ったけど、とりあえず僕が1人で行くよって頼み込んだんだ。話の内容によってはフェルに聞かせられない話題も出るかも知れないからね。


「おおっ! トーヤ、良く来たな! じいじに何か頼みごとかな?」


 いや、養孫の仕組みは無いって法務関係の方に確認済みですよ、ハール様…… まあ、確かにそうしてまなじりを下げておられたら好々爺こうこうやですが……


 僕は事前に書いていた相談内容を書いた紙をハール様にお見せした。


【ハール様、テルマイヤー侯爵家があちらこちらで迷惑をかけている上に、侯爵領の領民たちは重税で苦しんでいるようです。僕は、フェルの実家だからとこれまでは見ぬフリをしてきました…… けれど放っておいたままだと、フェル自身の名も落とす事になると思ったのです。ですので、何らかの対処をしなければと思うのですが、何か良い知恵はないでしょうか?】


 僕の質問にハール様は少しの間考えてから喋りだした。


「フム、テルマイヤーか…… トーヤよ、テルマイヤーは廃爵には出来ん…… 待て、コレには理由があるのだ。我が家と関わりもあり、今は影の役目もやってはおらぬが、それまでの影の役目をアヤツの先祖は紙媒体で記録として残しておるのだ。コレは写本を見せられたから、間違いがない…… 本来であれば我ら王家の影は、記録を残してはならぬ。しかし、アヤツの先祖、と言っても120年ほど前だが、何かの時に活用しようと仕事内容を事細かに記しておったのだよ…… そして、それはテルマイヤー家の当主に何かがあった時に貴族たちにばら撒かれるように手配をしてあるそうだ。勿論、ハッタリの可能性もあるのだが、確信が無い以上、王家も我らもテルマイヤー家を大っぴらに処罰出来ん状態なんじゃ…… 情けないじいじで済まないな、トーヤ……」


 うーん、まさかそんな手段を取っていたなんて知らなかったね…… コレは迂闊に僕が動くと王家にも、ハール様にもご迷惑がかかるのか……


 さて、どうしたらいいのかな……


 僕が物凄く悩んでいる姿を見てハール様が言葉を続けた。


「トーヤよ、我らも未だにその記録が何処にあるのかは見つけておらぬ。そして、それらの写本を貴族たちにばら撒く方法も分かってはおらぬのだ。そして、厄介な事にアヤツらは【元影】でもあるので我らの調査方法も熟知しておるのだ…… しかし、希望が無い訳ではない。トーヤの婚約者であるフェルの兄、3男のナイヤが見つかったのだ。フェルは面識は無かろうと思う。何せ12歳で家を飛び出してそれから何処で何をしていたか最近まで分からなかったのでな。実際、テルマイヤー家では居ない者として王家にも届けを出しておった。けれども、そのナイヤが商人として大成たいせいしておるのが分かってな。勿論、名前も変え普段は変装もしておるが、元テルマイヤー家の庭師をしておったワシの配下が間違いないと太鼓判をおしたのじゃ。先ずは、ワシと一緒にナイヤに会ってみんか? その時は出来ればフェルも一緒にじゃ。どうじゃな?」


 僕は今のところその人しか頼る人が居ないから、ハール様に頷いて分かりましたと伝えたよ。それから、もう一枚用意していた紙を慌てて出したんだ。


【フェルから頼まれたのですが、既に嫁がれているターナ義姉ねえさんには、もしもテルマイヤー家に何かがあっても罪咎つみとがを着せないようにしたいのですが?】


「それは勿論じゃ、トーヤよ。安心するが良い。フォグマイヤー伯爵家はワシの末の弟が先代の陛下より賜った家でな。今でも仲良くしておるし、ターナもワシの孫みたいなもんじゃからな。それにしても全く、今話したナイヤといい、ターナといい、フェルといい、まともな子も多く居るというのに…… テルマイヤー家の問題については、とりあえずナイヤと話をしてからという事で頼むの。そのナイヤじゃが、2日後にこの屋敷に来る事になっておる。ワシが商品を買うと言って呼んでおるからの。そうじゃ、その時にはターナにも来てもらうとしよう。フェルも久し振りに会いたいじゃろうしの。そう伝えてくれるかの?」


 僕はそれにも、もちろん頷いたよ。そして、ハール様のお屋敷を失礼して、自分の屋敷に戻ってからフェルの部屋に向かったんだ。また、レミとセラスに席を外すように伝えると、レミは


「トーヤ様、まだ早すぎだと私は思いますが、フェル様がお望みのようなので…… 見て見ぬふりを致します……」


 って僕に言うし、セラスは、


「トーヤ様、防音魔法は無しでも大丈夫ですよ〜」


 って言って間違った妄想をしているのが確認出来たよ。それに、聞く気マンマンで防音魔法が必要ないって言ってくるし…… 

 まあ、フェルが訂正しないから僕もニッコリと微笑んで2人に部屋から出ていって貰ったよ。フェルは顔を赤くしていたけどね。


 それから部屋にちゃんと防音魔法と、ついでに遮視しゃし魔法をかけてから、フェルにハール様からの伝言を伝えたんだ。


「まあ、ホントに? トーヤ、ターナ姉様にお会い出来るの? 嬉しい!」


 フェルが物凄く喜んでくれてるから、僕は良かったねって言って、また軽く口づけをしてから、魔法を解除して、2人の侍女を呼ぼうとしたんだ。


 扉を開けると耳をピッタリと扉にはりつけていた2人が転がり込んで来たよ……


「ト、トーヤ様、こ、これはセラスさんに唆されて……」


 ってレミが言うと、セラスが


「トーヤ様、ちょっと時間的にお早いですわ! 私でよろしければお手ほどきを致します!」


 って言い出して2人ともフェルに本気で怒られていたよ。僕は笑いながら部屋を後にしたけどね。


 でも、セラス、もう直ぐ人妻になるんだからそんな事お手ほどきを言っちゃダメだよ〜。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る