第49話 両王家の契約

 僕の屋敷にやって来たケレス陛下は、開口一番に僕にこう言った。


「トーヤくん、やっと私も温泉に入れたよ! こんなに気持ちがいいなんて! サラディーナが足繁く通うのも分かったよ!」


 ってね。そして、それから怒涛の如く陛下の愚痴が始まる事も予想しておくべきだったよ……


 いわく、何故私ばかり留守番をさせられてたのか?

 またいわく、こんなに気持ち良いものなら私ももっと早く入りたかった。

 更にいわく、トーヤくんはズルい。私が君に領地を上げたんだよ、サラディーナじゃないんだよ。

 …………………


 愚痴は30分で終わったけど、聞き終えた僕のゲッソリとした気持ちを分かってくれるかな? 


「それで、ケレス。私に頼みとは何だ?」


「おお、それだよルソン。君にウチの王宮とココの王家専用の温泉施設とを転移陣で繋いでもらいたいんだ、頼めるか?」 


 ケレス陛下がルソン陛下にそう頼むと、ルソン陛下が嬉しそうにイヤらしい笑みを浮かべてケレス陛下に返事をした。


「ケレス、残念だったな。今の私はトーヤくんに魔封じの腕輪を付けられていてな…… お前の頼みはきけそうにないんだ。どうしてもと言うならば、お前からトーヤくんに王命として、私の腕輪を外すように言ってくれるか?」


 それに待ったをかけたのはアカネ様だった。


「ちょい待ちっ! ケレスはん、ウチの息子にやらすさかい、腕輪を外す必要はあらしまへん。せやから、そんな王命は出さんといてぇな」


「おお、フィリップ殿下も空間魔法を!?」


「はい、ケレス陛下。父ほど熟練はしておりませんが、陛下の王宮とアチラの施設を繋ぐぐらいならば大丈夫です。距離も短いですから」


 おお、フィリップ殿下の自信たっぷりの物言いに、何故かショげた顔をするルソン陛下。


「い、いやフィリップよ、お前の魔法はまだ未熟だ、他国の王族の方に何かあってもいけないから、ここは私が……」


 そう言って食らいつくルソン陛下だったけど、ケレス陛下が女性陣の目を考えたのだろう、却下したんだよ。


「いや、ルソンよ。フィリップ殿下にお願いしようと思う。それで、アカネ殿。見返りは何を?」


「さすが、ケレスはんや。ウチの事をよう分かってはる。見返りっちゅうか、お願いになるんやけど…… ウチの王宮とケレスはんの王宮とを転移陣で繋がして欲しいねん。出来たら、ココとも。それと、王都にあるっちゅうトーヤくんの屋敷とも。ウチはトーヤくんと商いをしてみたい。アカンかな?」


 僕と商いですか? そちらに売るような物なんて何も無いと思いますよ? 僕の不思議そうな顔を見てアカネさんが言葉を重ねた。


「コラコラ、トーヤくん。何を不思議そうな顔をしてんねん。商い出来る物は仰山あるやろ? 温泉のもともそうやし、温泉施設を作るノウハウに、この街のお菓子もそうやし、料理もやで。ウチの国でも食べたいねん」


 ああ、そう言う事でしたか。納得した僕はこの屋敷と、王都の屋敷に転移陣を設置する事を了承したよ。但し、条件を付けて。


【転移陣の設置は家に関しては了承しました。けど、条件があります。ルソン陛下の利用は無しで、もしもコチラ側に転移陣でルソン陛下が来られた場合には、僕の張った結界から出られない様に処置する事を承認して下さい】


 僕の書いた条件を読んでアカネさんは満面の笑みで言った。


「そんなん当たり前やん! 有難う、トーヤくん。何ならこのボンクラをワザと行かすさかい、ずっと結界に閉じ込めてくれてもかまへんよ」


「ト、トーヤくん、その条件は何かな? 仮にも僕は一国を統治してる国王なんだけどな……」


 僕はアカネさんにニッコリと微笑みながら、ルソン陛下にササッと書いた紙を見せた。


【家の大事な侍女たちを口説いたり、裸を覗こうとしたりする人を家にご招待する訳にいきません】 


 それにはケレス陛下も頷いて、そして


「そうだな、アカネ殿。王宮同士を繋ぐのは構わない。但し、ルソンはその腕輪を付けた状態でと、私も条件を付けさせて貰おう」


 そう条件付きで了承したんだ。


「ケレスはん、有難う。勿論、その条件でエエよ!」


「ケ、ケレス、お前まで……」


 ルソン陛下が泣き顔になってるけど、オジサンの泣き顔は可愛くないなぁ……


 それから、僕たちは屋敷で宴会を始めたんだ。今回は僕の道具箱から出したワイン、それに、この街で醸造したラガービールも出してみたよ。


「アカーン!! コレはアカン! こんなん出されたらウチの国が購入するだけで、売るもんがあらへん!! ジーク、カーズ、何か無い?」


「王妃殿下、アレがあります!」


 とジーク兄さんがアカネさんに言う。アレって何かな?


「更に、アレもありますよ、王妃殿下」


 カーズ義兄にいさんまでそう言う。


「せや! アレがあったな!! トーヤくん、コッチでは見かけへんかったけど、ガラスの小瓶なんか需要あれへん? それから、コッチの浴槽は石で出来てるけど、木の浴槽なんかはどない?」


 おお!! 僕自身の道具箱に入ってるけど、コチラの職人さんが作るガラスはイマイチで、今も温泉のもとは量り売りをしてるんだよね。ガラスの小瓶が手に入るならそれに入れて売ることも出来るね。更に、木の浴槽! 前世でも好きだったヒノキ風呂が出来るのかな? それも憧れるなぁ……


 僕は一度現物を見せて下さいとお願いしたんだ。それで購入するかを決める事にしたんだ。


「それじゃ私たちが帰国する際に、フェルちゃんと一緒にトーヤも来たら良いと思うわ」


 セティナ姉さんがそう言う。更にカオリ義姉ねえさんも、


「そうね、それが良いわ。よろしいですか? 王妃殿下」

 

 と言い出した。


「勿論、大歓迎やで。取り敢えず買えるモンをうて、帰国するさかいトーヤくんとフェルちゃんの都合が良かったらウチの国に遊びに来てぇな」


「ちゃんとウチに返してよ、アカネちゃん」


 サラディーナ様がそう釘を指す。


「も、勿論やで…… サラちゃん」


 その間は一体なんですか? アカネ様、僕は遊びには行きますけど、永住はしませんからね。


 こうして、僕とフェルちゃんはナニワサカイ王国に行く事になったんだよ。

 


 


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