第30話 家族の為

 翌朝、各貴族家に王家からの通達が届いたようだ。今日も学校は休みだったけど、朝からログセルガー公爵家のご当主様と次期ご当主様が、ハイナイト家の屋敷前で騒いでいる。


「コラーッ!! 出てこい! 忌み子めーっ! どうやって陛下に取り入ったのだーっ! 出てきて説明しろーっ! そして陛下に言って爵位を返上しろーっ!!」


 コレは次期ご当主様のテルマー・ログセルガーのお言葉。


「トーヤよ、ワシはお前が産まれた時にちゃんと公爵家の子だと認めておったぞ。しかし、親を無視して陛下から爵位を賜るとは、何という親不孝をしてくれたのだ! 今からでも遅くはない。その領地をワシに渡すと陛下に言ってくるのだ!」


 で、コッチがご当主様のマイヤー・ログセルガーのお言葉。


 もうね、朝から五月蝿いから二人にだけ防音魔法をかけたんだよ。コッチは今から大切な話合いがあるからね。


 さてと、外の騒音も消したから僕は改めて3人の方を向いたんだ。3人とは、ガルン、ラメル、リラだよ。

 僕は朝早く起きて書いた紙をガルンの方に差し出したんだ。さすがに長文すぎて表情で全てを伝える自信が無かったからね。


【この国の国王陛下から爵位を打診されてるそうだけど、出来ればリラの為に受けて欲しいんだ。陛下が用意してくれてる爵位は伯爵位だけど、領地なんかは無く名誉爵位だと思ってくれていいって言って下さってるから、どうかな?】


 読んだガルンはラメルに手渡し、ラメルはリラに手渡す。3人とも読み終えてから、先ずはガルンが言った。


「トーヤ様、リラの為に受けた方がいいのは理解してるんです。けれども、トーヤ様よりも上の爵位だと言う事が、俺たちには納得がいかないといいますか……」


「トーヤ様、リラに婚約を申し出てくれたシンくんの家が侯爵家で、釣合いを得る為に伯爵位だとは分かってます。でも、私達親子はトーヤ様にお仕えする事で何とかこれまで生きてこれました。そんな私たちがトーヤ様よりも上位になるなんて……」


 と、ガルンとラメルは僕が陛下より賜る子爵位よりも上の伯爵位を賜る事に抵抗があるようだね。

 するとリラも昨日は説得するって言ってたのに違う事を言い出したよ。


「私も家がトーヤの家よりも上の爵位になるのはイヤだな〜」


 コラコラ、リラ。それじゃ約束が違うでしょ。僕が困った顔をしていたら、フェルちゃんのフォローが入ったよ。


「フフフ、本当にトーヤ様の事をご家族として思って下さってるのですね。私も嬉しいです。でも、陛下の打診内容を良くお読みになりましたか? 伯爵とは言っても領地も仕事もなく、他の貴族からは無駄飯食らいだと言われるような名誉爵位ですから、トーヤ様よりも上だと見る貴族はおりませんわ。まあ、お外で騒いでいらっしゃる方の派閥は別にしても。ですから、コレはあくまでトーヤ様の本当の意味でのご家族に対する陛下の優しさだと私は思います」 


 その言葉にウンウンと頷いて同意を示す僕。そして、今朝書いたもう一つの紙を3人に差し出したんだ。


【この陛下からの打診を受けて伯爵位になっても、僕と一緒にこの屋敷に住んで欲しいんだ。今は2人に懇願されて呼び捨てにしてるけど、ガルンは僕にとって父親だし、ラメルは僕にとって母親だよ。そして、リラは姉だよ。僕はリラが順調にシンくんと結婚出来るなら、受けるべきだと思ってるよ。コレは2人の子供として、また弟してのお願いでもあるんだ】


 僕の差し出した紙に書いてあった文章を見て、3人とも立ち上がって僕を抱きしめてくれた。


「俺はお前を息子だと思ってるぞ、トーヤ!」

「私にとっても貴方は良く出来た長男よ、トーヤ!」

「トーヤ〜、ヒグッ、嬉しい、お姉ちゃんは良い弟がいて嬉しいよ〜」


 3人とも泣きながらそう言ってくれたから、僕の目からも涙がこぼれ落ちたよ。僕の隣のフェルちゃんもハンカチで目元を抑えている。

 そして、セバスやハレ、セラス、レミさんも微笑みながら泣いていた。

 トウシローに至っては、


「ウォーッ! 何という素晴らしい家族愛!! 俺は必ずこの方たちを守るぞーっ!!」


 なんて大声でいって号泣してる。その号泣によって熱くなってた胸が少し冷えたから良かったよ。僕たちは少し照れ臭そうにしながらも、お互いの認識が一致した事を確認して頷きあったんだ。

 早速、セバスにお願いして王家にガルン1家の叙爵を謹んでお受け致しますと伝えてもらった。

 王家からの返事はその日のうちに屋敷に来て、明日、陛下の代理人がログセルガー公爵家のご当主様を連れてきて、今回の僕の叙爵の件とガルン1家の叙爵の件をその場で確定してくれる事になった。

 それは有り難いけれど、僕たちは少し心配になったよ。だって腐っても公爵家だからね。代理人の方が王宮でどんなに偉い地位についていたとしても、貴族主義であるこの国では、やっぱり爵位がモノを言うからね。


 けれど、その心配は全くの杞憂に終わったよ。まさかの方が陛下の代理人だったからね。陛下も血縁上の僕の父がゴネる事を想定されていたみたいだ。やっぱり、抜けてるように見せたのは演技だったのかなぁと、僕は陛下の評価をまた1段階上にしたんだよ。

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