立花くんは革命家。
「ちょっと! 着いてこないでよ!」
「ハッシーがでしょ!!」
立花の同クラス女子、フルフルコンビこと古橋佐和子と古田美緒は昼休みも残り僅かだと言うのに、一目散に駆けていた。
「だったらどうなの! あんたが告んないから我慢してたのに!」
「わたしだってそうだよ! ハッシーが大切だから!」
階段を駆け上がり、ある教室を目指して駆けていた。
「要らないわよそんなの!」
「わかってるよそんなこと!」
二人はわかっていた。
廊下は走ってはいけません。
階段を駆け上がってもいけません。
でも恋をしたなら仕方ない。告白するから仕方ない。親友だけど仕方ない。
好きな人が同じだから仕方ない。
心を打ち明けたくて仕方ない。
愛しの先輩に告りたくて仕方ない。
それに、これは戦争だから仕方ない。
「「邪魔!」」
◆
フルフルコンビはいきなり立ち上がり向かってきた立花に戸惑った。彼女達は知っているのだ。
立花くんの悲劇を。
でも彼は優しく、フルフルコンビの喧嘩の仲裁をしてくれたこともあった。自分の身の上話をネタに笑わせてくれたり、笑えなかったり。ドン引きしたり。
だからなのか、不思議と彼には素直になれた。
そんな彼が最近おかしかった。
訪ねるも、なんとも苦い顔をして誤魔化された。何かあったんだろうけど、向こうから言うまでは黙っておこうと二人は決めていた。
眼帯をつけてからは特に挙動がおかしくて、ずっと見ていられた。だからいつものように軽口で煽ってしまった。
その彼が、おかしな事を言い出した。
その瞬間、二人はブルっと心が震え、駆け出した。心に閉じ込めたままのそれが、導火線に火がつき蓋が弾けたのだ。
その二人を皮切りに、陽キャも陰キャも男女も男男も女女も関係なく、恋と愛のレースの火蓋が、切って落とされたのだ。
立花の手によって、いや目によって、火蓋が開いて点火されたのだ。
◆
「やっぱり…するんじゃなかったかな…」
これ、多分授業始まらないよ。
立花は一人冷や汗をかきながら呟いた。
後ろの席では吉木君と原さんがイチャイチャしている。そのすぐ横には撃墜された早川さんが四つん這いで涙している。
足立さんは逆ハー状態に狼狽えながらも舌舐めずりしてこっちを見ている。
佐野君は一年の教室まで飛び出していった。
他校に恋人がいるクラスメイト達は死ぬほどメッセを送っている。
「…やり過ぎたんじゃなかろうか…それはそうと衛生兵の矢印は…よし…生えてない」
立花の言う衛生兵は、恋に関心のないクラスメイト達だった。彼ら彼女らは看護の方ではなく、立花の心の衛生状態を保つ清涼剤だった。
そしてこれからが彼の戦争本番だった。
争いの行き着く先を数字で暴き、矢印を繋げ愛と平和に導き、学校を恋と愛で満開にするのだ。
「レッツパーリー…か。向いてないけどな…」
立花はまだ気づいていないが、心の中には、略奪を促そうと囁く何かがいる。悲恋に熱をあげる何かもいる。
だが無駄である。
忘れたとは言え、立花の心の中には恋した彼女達の思いは情熱は、今も燻っているのだ。
恋に敗れ、恋に泣き、また恋をした自分が一番わかっているのだ。
だからみんなハッピーにする。
「立花くん、放課後ボランティア部行くから。予約したから」
恨みがましい目を向ける早川さん。
中には彼女のように、次の矢印が生えない子もいる。それはそうだ。
でも、そんな彼ら彼女らも救うのだ。
戦犯だけど、救うのだ。
放火魔だけど、救うのだ。
そして、魔眼を鍛え、須藤の悪夢を彼女達から取り除くのだ、と決意する。
理森にとって、都合の良い嘘とも知らずに。
立花くんは、割とすぐに騙されるのだ。
諦めの悪い早川さんの冷ややかな視線から目を逸らしながら立花は答えた。
「…ハイヨロコンデ」
でも、早くも挫けそうだった。
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