第74話 思惑どおり
「……は……入っても……いい……?」
「
澪がすごすごと入室して来た。
「おかえり」
「う、うん。ただいま……」
相変わらずあからさまに距離を取っているのが気にかかる。
「(ちゃんと汗拭いたんだけどな……)俺、昼メシまだなんだ。澪姉は外で食べて来ちゃった?」
「ううん、まだ。それで献慈のこと誘いに来たんだけど」
「そっか。じゃあ今からどっかに食べ行こうよ」
献慈はベッドを降りて歩み寄るも、澪は頑なに目線を合わそうとはしない。
「澪姉……さっき言ったこと気にしてるんなら……」
「わ、わかってるから! け、献慈は……その……す、スッキリした……?」
「まぁ、久々に思いっきりぶっ放したからね。カミーユにも手伝ってもらってさ」
「そうだったんだー………………えっ?」
「ああ、もちろんライナーさんもね」
「…………ええっ!?」
「最後はシグヴァルドさんがデカいのを一発……」
「ちょ、ちょっと献慈、ちょっと待ってええぇぇ!? じょ、情報が……情報が追いつかないからああぁぁ!!」
息も荒く眼を血走らせる澪に、献慈は速やかな説明を迫られるのだった。
その日の午後、すでに夕方と言ってもいい時刻となっていた。
部屋に集まった三人の顔を献慈は見渡した。
「……もう一度説明する?」
「いいって。ちゃんと聞こえてる」
真っ先に答えたカミーユが最も落ち着いた面持ちを見せている。
次いで口を開いたのは澪だ。
「倒しに……行くの? ヨハネスを?」
「それは僕たちも戦力として期待されていると考えていいのですね?」
ライナーにすら若干の動揺が窺える。たしかに、献慈の行動は他人から見れば急な印象を与えたに違いない。
「頼みがあると言ったのはそういうことです」
「すでに一度完膚無きまでに敗れた相手だというのは承知の上でですか?」
ライナーが念を押す、その対角線上でカミーユが冷ややかに笑う。
「白々しいなぁ、ライナー。アンタの思惑どおりに転がってるじゃないの」
「……どういうことです?」
「思惑云々は心外ですが……ここで口をつぐむのはフェアではありませんね。率直に言えば僕らにとって渡りに船という意味ですよ、ドナーシュタール奪還のための」
これは午前中の話の続きだと、献慈は瞬時に理解した。
「烈士界隈で義理や
「理屈は……わかります」
「ええ、極めて合理的かつ打算的です。だからこそ尻込みもする。……ですよね? カミーユ」
ライナーが返答を求めた相手は、極めて不快そうに頬を歪める。
「見くびらないでくれる? あたしは……ケンジみたいなヘタレを連れてくのが不安なだけ。ミオ姉だってこのところすっかり腑抜けちゃってさ、正直当てにならなそうだし」
「澪姉……」
話題の中心へ躍り出た澪を見つめながら、献慈は次に紡ぐべき言葉を必死に探った。
「俺は……澪姉の力になりたくて旅に出たんだ。なのに……俺がしたことっていったら、死にかけてみんなに迷惑かけたことだけだ。何も……してこなかった。できなかった」
傷つけたいわけじゃない。
「澪姉に、立ち止まったままでいてほしくないんだ。明るく前を向いて、ひたむきに生きてほしくて、どうしたらいいか、いろいろ考えて……」
拙くて、愚かで、子どもじみた情熱。
「結局こんなことしか思いつかなかった。ごめん、自分勝手で。でも、まだ少しでも前に進みたい気持ちが残ってるなら、俺と一緒に来てほしいんだ。一緒に……乗り越えよう、過去を」
それでも、伝わってくれと願った。
だから返事を、待った。
「……私は……」
「…………」
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