第56話 空を飛べたら
棚雲る空の下、四人は街道を早足で進み行く。
目指す関所は山の中腹にある。無頼の行き来を妨げるため、自然の難所を利用するのはよくあることだ。
「道なりに行く分にはそんなに険しくないはずだよ」
先頭を行く
「ミオ姉は鍛えてるから大丈夫だろうけど、コイツがねー」
「えー、また俺?」
「
「うん、まぁね……(
とはいえ先日の運動量は堪えた。霊泉の回復作用がなければきっと今もキホダトで立ち往生だ。
「あの山脈を境に首都圏へ入るという認識でよいのでしょうか?」
「そう。一説によるとあの辺りに
「お詳しいですね。ちなみに知っておいででしょうか。那梨陀は『
ちゃっかり
ドヴェルグは知能が高く手先も器用で、鍛冶術や魔導をはじめとしたあらゆる秘術に通じていたという。しかしその豊富な知識や技術の大半は、彼らが地上を去るとともに失われてしまった。
「へー。同じ話十回ぐらい聞いた気がするわ」
退屈そうなカミーユを見て、澪が別の話題を投じる。
「それじゃこれは知ってる? イムガイの山奥に住む天狗の言い伝えとか」
「天狗ってあの、鼻が長くて、翼で空飛んだり、風を起こしたりする?」
天狗と聞いて興味が湧いたのはむしろ献慈のほうであった。
「鼻……はよくわからないけどそんな感じ。ヒトよりも長生きで、姿を消したり、いろんな術を操ったり」
「秘境に隠れ住む翼人の逸話は世界中に伝わっています。イムガイの天狗もきっと大昔に分かたれた一派なのでしょう」
「そっかぁ。ライナーって本当物知りだよねぇ……献慈?」
「あぁ……ん?」
空を覆う雲が一瞬、献慈には欠けたように見えた。
「どうかした?」
「(気のせいか……)いや、空を飛べたら旅するのも楽なんだろうなー、とか思ったりして」
「ユードナシアには空飛ぶ乗り物もあるんだっけ? こっちでは魔導もそこまで進んでないから……」
「魔術ではどう?」
尋ねられたカミーユの反応は芳しくない。
「無茶言うんじゃねっつーの。エルフや魔人でもあるまいし」
「そうなのか。てっきりシルフィードの力で飛び回ったりできるものとばかり」
「ん~、あの方法は……一回死にかけたからなぁ……」
「え!?」
「こっちの話。単に飛ぶだけなら鳥型の精霊にぶら下がったほうが楽だよ。腕疲れるけど」
何にせよ、
「わざわざ飛んで行かずとも、橋はもうすぐそこですよ」
ライナーが指差すのは、以前も目にしたシヒラ川の上流付近だ。両岸を結ぶ橋は鉄骨を用いた頑丈な造りをしている。
宿場までの道のりはまだ半ばといったところ。ここらで一息入れるのがちょうどよいだろう。
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