好きだから着てるだけ 似合うから着てるだけ

ヒツジ

第1話 似合うから着てるだけ

「今日さ、昼休みにA組の神田さんに呼び出されてんけどな」

「ああ、吹奏楽部の」

「『好きです。付き合ってください』って告白されてん」

「あら〜。入学から通算10人目。二桁おめでとう」

「……で、いつも通り『女の子は恋愛対象にならないのでごめんなさい』って断ったんや」

「それで?」

「『男の子が好きなんですか?』言うから、『はい』言うたら泣きながら走り去ってったわ」

「………まあ、ショックやったんやろな」

「………泣くくらいな」


こんな告白話を披露しているうちの名前は半田マリ。15歳。………女子高生です。


「なんでなん!なんでこんなに女の子に告白されるん!?」

「それはお前が見た目だけは超絶イケメンやからやろ。高校でスラックスの制服を選んでからますます磨きかかってんで」

「褒められても嬉しないわ。でもうちは女の子が好きとは一言も言ってないで。なんなら教室で『菅田将暉カッコ良すぎてヤバイ』叫んでるくらいやのに」

「あれ?前は佐藤健言うてなかった?」

「そこは問題やないねん。とにかく、こちとら女の子を騙して泣かせたような気分になって、毎回罪悪感が半端ないんや」

「そういう女の子に優しいところもモテるんかもな。とりあえず、髪伸ばしてスカート履いてみるか?」

「そやな。……なんやろ。今更スカートも長い髪も違和感しかない。女装してる気分になる」

「それは女装なん?」

「そもそも似合うからとうちを着せ替え人形にして、イケメンに育て上げたんはどこの誰や?」

「あ、いや、あまりにも着こなすから楽しくなって。でもほら、こんなチヤホヤされんのも最初だけで、1年もすれば告白騒動も落ち着くって」

「甘いわ。1年経ったら後輩が入ってくるんやで」

「あ」

「先輩フィルターという厄介なオプションつきで」

「………とりあえず断る理由を、他に好きな人がいるからとかにしてみたら。泣いて立ち去る子は減るかもしれんよ」

「そんな変に気をもたすような残酷なマネできひん」

「優しいな」

「………あんたは見た目だけは美少女なのに、告白されることはないんやな」

「ないんや。一個もないんや。男からも女からも。いや、男からあっても応えられへんけど」

「しょーもないナンパはされるのにな」

「それな。あ〜、どうしたら女子からモテるんやろか?彼女欲しい」

「……髪切ってズボン履くか?」

「いやや。ここまで伸ばすのにどんだけ苦労した思てんねん。手入れもめっちゃ頑張ってるんやで」

「ほな、その姿も含めて好きになってくれる人を探すしかないな」

「そやな。世界は広い。きっと見つかる」

「がんばれ」


言い忘れてたけどうちと話してるのはスカートの制服をサラッと着こなす、見た目は超絶美少女、中身は普通の男子高校生の井上コウスケ。

これはそんなうちらが部活の帰りにダラダラ会話をするだけのお話です。

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