第39話 集団食中毒?
町拡張は工房の職人や町民、マッツォ商会の協力で順調に計画が作られ、東の区画の着工に入った。
とはいえまずは道の整備と区画割りの図面を作成中なので、地均しや雑草抜きといった町民や子供でもできそうな作業が主体である。
そんな中、北の村開拓計画は問題が発生していた。
ケイコの知識を実行しようにも、今の職人の腕もそれを行う道具も無い状態だった。
「道具は作るとしても、それを作る職人の腕は一夕一朝じゃ身に着かないよな」
俺の言葉にケイコはさらに頭を抱えて悩みだす。
「だとしても水車や製粉所が出来たんだ、職人たちもうでが悪いわけじゃないと思うし、時間をかければ何とかなるんじゃないか?」
落ち込むケイコにフォローを入れるも落ち込んだままの状態で「そうだね」と言い残し部屋を出て行ってしまった。
「ずいぶんと難航しているようですね」
「ああ、そうだな。とはいえこればかりはすぐにどうこうできる事ではないし、時間をかけるしかないだろう」
それを横で見ていたベックと言葉を交わして、手元にあった書類に目を通していく。
時間はかかるが職人の腕や技術が上がれば、それから王都から来る予定の研究者たちが来てくれたら何とかなるかもとおもいつつも心配していた。
それから数日して一通の手紙が届いた。
先日来た公爵様からの手紙だった。
内容は、貴族特有の言い回しの挨拶に始まり、美味しい食事などのお礼、そして本題となる研究所の人員派遣の件であった。
人員派遣に関しては研究所の許可を得た、ただ準備などがあるため早くても秋ごろ、遅くても春までには数人の派遣が出来るとのことだった。
ついては仮の研究所もしくは分所をこの街に作って欲しいという事も書いてあった。
その事を町の拡張計画の責任者であるジョイに話すと、研究所など聞いたことも見たことも無いジョイは悩んでしまった。
俺自身見たことがないし、ベックも先代の父親と王都に行った時に何度か遠目で見ただけである。
その時見た建物は壁は石で出来た頑丈そうな建物だったと説明された。
それなら石造りの建物を建てて、中は研究者が来てから相談しながら作ればいいと、とりあえず大きな建物を作るため計画案に盛り込んだ。
拡張計画は順調だった。だが町の中である事が多発するようになった。
それは北の岩場で海産物が取れるようになったので、それを加工調理したものを食べた住人が次々と腹痛等を訴え、中には瀕死の状態にまでなってしまう者も現れたのだ。
前もってケイコから海産物はすぐ傷むので取ったその日に加工調理してすぐ食べるようにと言われていた。
大方傷んだものを食べたのだろうと考えて、食当たりの薬を出していたのだが一向に良くなる気配はなく、むしろ痛みが増したりひどい者は吐血や血便といった症状まで現れたのだ。
それをケイコに話すと海産物の中には毒を持ったのもあるというのでその毒の影響かと解毒剤を与えたが、一向に良くなる気配がなかった。
原因が判明したのは症状が軽く回復した者から悪くなる前に食べた物を聞いたケイコが寄生虫かもしれない、といった事が発端だった。
この世界の獣や魔物にも寄生虫は存在する、ただそいつらは内臓に寄生するので内臓を丁寧に処分すれば肉や皮といった素材には影響がないものだった。
ただ魚には内臓ではなく身に寄生するものがいるらしく、それは下手すると死に至る危険があるやつもいるとか説明された。
実際症状が出た者は魚を内臓を取らずに焼いた物を食べたという、症状が現れた者が出た直後に海産物の食用を禁止したのと、マッツォ商会が他領から寄生虫に効くという薬を調達してくれておかげで、これ以上患者は増えなかったし軽い症状の者は回復に向かったり仕事ができる状態にまで回復している者もいる。
だが症状がひどい者の中にはいつ亡くなってもおかしくない状態の者もまだ若干いて予断を許さない日々が続いていた。
ケイコはこれを機に毒のあるやつや寄生虫の対策などの指導を強化するといっていた。
だが実際は寄生虫のいる可能性のある魚の調理を禁止して対処するしかなかった。
寄生虫の食中毒の騒動が一段落した頃、とはいえまだ療養している者もいるが回復に向かっているので今のところは安心している。
そこへ西の畑の開墾が終わったと報告があり、所有者となる者たちを連れて視察に行ったり、町の東側に続いて南側の作業が始まったりと、慌ただしい日々が続いて行った。
そんな中、王都から研究者の一人が数名の助手らしき者を引き連れて町に来た。
聞けば派遣される予定の一人だそうだが、予定では夏過ぎという計画なのだが気持ちが抑えきれずに先に来たという。
その者はフィルと名乗り年は40で川などの治水を主に研究しているという。
挨拶もそこそこに着いてすぐだし疲れているだろうと部屋を用意したのだが、それより現場を見たいといってケイコの案内で村予定地の岩場に向かって行ってしまった。
「なんだろう、すごい人だな」
ケイコとフィルを乗せた馬車が出ていくのを見送り呆気にとられながら言うと、周りにいたものみんな頷き呆然としていた。
数日してフィルは館に戻ってくると何やら部屋に籠ってやっているようだった。
ある時は図面や計算式などが書かれた紙が散乱していたとか、持っていった食事に手を付けずにみんなで何やらずっと上を見ながら考え事をしていたとか、不気味だと言った話で世話をしている者たちの間で持ちきりだった。
部屋に籠っていたと思ったら今度は工房に行ったり、北の岩場に行ったりと慌ただしくあちこちに出かける様子も見せていたのだった。
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明けましておめでとうございます。
今年もゆっくりとのんびりと書いて行きますのでよろしくお願いします(o*。_。)oペコッ
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