第37話 町拡張は順調


町の拡張計画は着々と進んでいった。

畑つくりの時点である程度余裕を持たせていた東側と何もない北側と南側は拡張予定の場所に獣除けの柵が完成して、道の整備や区画割りが始まろうかとしていた。


もともと町自体が中央の広場を中心に東西南北に大きめの道が伸びてそれを基準に区画割りがされていたのでその延長として道を作る予定である。

東は街の玄関口として商店や宿といった商業関係を中心にそこで働く者、それから東の畑で働く者の住居。

西は基本住宅地として、領民が必要な日用品や雑貨や食料品といった物を扱う商店街。

北は元々職人の工房が集まっていたので職人街として工房や倉庫、そこで働く者の住居。

南は俺の家でもある領主館があるという事で、来訪した貴族など高貴な者の泊まる為のお高い宿とマッツォ商会の本店、それと騎士団の詰め所や訓練所に迎賓館といった治安や領地運営に関わる建物。


といった形で区画割りや整備がされていく予定である。

この計画にはベックたち家臣の他にも町の者たちの意見も聞き決定されている。


「まずは玄関口である東の計画から進めて次に南、それから北と西といった形で進めていこうかと思います」


情報共有を兼ねた話し合いで、拡張の内容や区画割りの事を話し終えると町拡張計画の責任者として任せることにしたジョイがこれからの計画を簡潔に報告してきた。


文官見習いとして移民してきたジョイとルーイはベックの元で働きながら勉強していた。

ジョイは人員配置や指示といった人を動かすような仕事が得意なようだったので今回の町拡張の責任者として任命した。

ルーイは街に来る前から計算など数字に関する事が得意そうだったので領地の収支に関することを任せている、今回の町拡張でも経費などの管理を任せることにした。

ベックはこれまでと同様に二人の指導とサポートを任せている。


話し合いが終わるとジョイとルーイが執務室から出て行き、代わりにアリサが新しくメイド見習いとして指導している者を数名連れて入ってきた。

最初はおどおどしたり緊張からかぎくしゃくした動きをしていた見習メイドたちも、だいぶ慣れてきたのか綺麗なお辞儀をしてアリサに続いて入ってくるとお茶を入れたりしている、とはいえまだどこかぎくしゃくした動きをする事もあって、それを見ては俺やアリサは時折笑みをこぼしていた。

この子達は後々迎賓館や貴族向けの宿の管理を任せる予定なのでアリサには礼儀や所作を中心に指導してもらっている。


「そういえばケイコ様たちがいらっしゃらないようですが」


アリサがふとここにケイコ達が居ないことに気づき聞いてきた。


「ケイコ殿はオリビア王女様と女が・・・、パルミール様を連れて、水車づくりが一段落して手が空いた親方と一緒に北の岩場に行っているよ」


北の村を作るという話を親方に持ち掛けた際、ケイコの話がいまいち分からないから一度現場を見てみたいという事になり向かった。

その際にケビンの提案で遠征の訓練もかねて騎士見習い数名とケビンが護衛について行った。

女神様とオリビア王女はと言うと面白そうだから、と付いて行ったのである。

それとパルミールが女神様だという事はベックを始め他の者には内緒にしていて、ケイコの友人として紹介している。



お茶を飲んで一息ついた後、ベックが手紙の束を机に置いてきた。


「ベック、これは?」


突然出された手紙の束に目を点にして聞く。

貴族派閥の勧誘、それから貴族や中小の商会からお茶会やパーティーの招待状らしい。


「いきなりこんなにどうして?」

「それはリゲル様が子爵位になられたからでは。とはいえ一番は王族とつながりがあるというのが要因かと」


ベックの返答を聞いて俺は手紙の差出人を見ていく。

アントン国王支持の派閥とヘントン王子支持派閥がほとんどだった。

流石にこんな子爵なり立ての下級貴族相手に上級貴族の侯爵や伯爵といった人が出てくるわけもなく、子爵や男爵といった下級貴族がほとんどである。

二人の王女が懇意にして第一王位継承権を持つ王子とまでつながりがあるとなればそりゃこうなるか、と思いながらも先代である父親の時は弱小で貧乏貴族だったことや、そういったつながりを避けていたこともあり、派閥だ、お茶会だ、といった話は聞いたことすらなかったので、どう返信すればいいのやらと考えて頭を抱えることになった。


貴族として派閥がいくつかある事は知っていたし、代表的な派閥の事は知っていた。

だがそれは貧乏で弱小な貴族のうちには関係のないことだと思っていたところにこれである。


どうしたものかと悩んでいるとベックがまじめな顔で話し始めた。

問題を起こして処罰されたイージ子爵だが、実は第二王子派閥の者と懇意にしていたらしい。

最悪その者から何か報復的な事があるのではと心配していた。

その際に派閥の者と懇意にしていれば手が出せなくなるのでは?という事らしい。

今現在そのような事が起こっても居ないし、そんな兆候もないので杞憂だと返したが、何かあってからでは遅いと心配しているようだった。


「心配するのは良いが、その者がそういった行動に出ても、結局は被害を被るのはその者や派閥だろう。そんな後先考えない行動するようなバカはいないだろう」


俺の言葉にベックは何か言いたげだったが「そうですね」と返事をしつつ、それは別にしても貴族同士のつながりはあった方がいいのでは?と言ってきた。

確かに繋がりはないよりあった方が良いとは思う、だがこの差出人たちは今まで見向きもしなかった者たちで、子爵になり王族とつながりがあると知ったら手のひら返すようにして来たのである。

なんというかもやもやする気持ちを持った状態で仲良くできるのか?という思いがあり、この事は保留として後に回すこととした。














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