偶像の親子丼

 ペタペタとベージュのペンキを塗っていく。カンカンと金づちで釘を打つ。ギーコギーコとのこぎりを動かす。


「それ凶器じゃないよね?」


「ルドルフ、何言ってるのよ?大工道具よ??」


 なぜ、そんな発想になるのかしら……せっせと食堂改造計画を実行にうつしている。


「『黒薔薇姫』は最凶にして最悪。最強にして災厄」


 あたしが作業している横で、ブツブツそういう。


「なに!?それ!?」


「彼女を表すための言葉だよ。まさにぴったり!」


「どういうことなの!?どんな人なのよっ!?」


 サシャが何を叫んでるんです?と食堂を通りかかったらしく顔を出した。

 ルドルフが可笑しそうにサシャに言う。


「マナがたぶんカンチガイしてるから『黒薔薇姫』について教えてあげようと思ってたんだ。マナの中のイメージが良すぎるよ!どんな姫だと思ってんのさ!?」


 あたしはペンキの二度塗りをする手を止める。


「ものすごく美人だし、エレガントな大人の女性で落ち着いていて………」


 サシャがちょっと待ってください!?と制止した。


「聞くに耐えなくて……すいません……誰のこと言ってるんですか?」


「ほらね?マナは良いイメージすぎるたろ!?」


 ルドルフが笑う。サシャはジーーッとあたしを見つめて言った。


「マナの中に『黒薔薇姫』が存在するなら『偶像を作り上げるのをやめろ』と怒鳴りたいところです。どれだけ我々が被害を被ってきたか!!」


 あたしがわけ分からなくなっていると、ルドルフが説明する。


「魔王様、サシャ……6家門の他の魔王候補たちは昔から付き合いがあった。その中でも最強の力を誇っていたのが『黒薔薇姫』と呼ばれる彼女だったんだけど……昔からすごーーくヤンチャな人だった!魔王様も小さい頃いじめら………」


 サシャに口を塞がれるルドルフ。それ言ったら魔王様に怒られますよ!と止めている。


「えーと、ごめん、なんかあたしの想像とかけ離れてるような?」


「他の者たちにも聞いて見ると良いですよ。例えば魔王城の周りにいくつか池があるでしょう?あれ彼女が作りました。それも幼少期にね」


「ど、どういうことなの!?」


「1つ目は彼女をからかったとかで、ぶっ飛ばされた魔族。2つ目は力比べを挑まれて。3つ目はゴーシュ家の当主に嫌なことを言われて、4つ目は勉強が嫌で逃げ出した時、5つ目は彼女の靴を隠したやつが………」


 もういいですっ!とあたしは止める。

 サシャが嘆息する。


「だから、マナが『黒薔薇姫』の力を使えるならばコントロールする力をつけたほうがいいのです。幼い頃から知ってるのにアル……魔王様は何を考えてるのか……」


 まったくと言いながら、そろそろ仕事に戻りますと去っていく。


「そういうことなんだ。僕の耳を可愛いとか言いつつ、ひっぱって泣かせたこともある!」


 腹減ったな~と魔王様が来た。


「そろそろ昼ごはん食いたいんだが?作業進んだか?」


 食堂の様子をキョロキョロと見てつぶやく。


「ペンキくさっ……」


「今、何か作りますね!」


 作業に戻りたいから、すぐできる簡単な昼食にしよう。3人であたしの部屋へ行く。


 鶏肉、薄切りの玉ねぎを沸騰した出汁の中へ入れる。黄色い卵液をチャッチャッとかき混ぜる。具に火がとおったところで卵を流し入れる!ここからはタイミング勝負!

 

「今!!」


 火を止めた!卵がほどよい半熟加減!鶏肉と玉ねぎにトロリと卵が絡み、それをご飯の上にのせる!


「はい!おまたせー」


 山椒七味をお好みでどうぞと置く。大根の漬物を添える。


 ハフハフと熱々の親子丼を食べる。


「オイシーッ!卵料理大好きなんだよねー!」


 オムライス大好きなルドルフがそう言う。魔王様は鶏肉もプリプリしてて卵の絡みぐらいがいいと言いつつ、山椒七味もかけてみて、これも合うなーとあっという間に食べきった。


「親子丼の付加効果はスピードアップか……」


 早くして、食堂改造しに行こうと思ったからかな。わかりやすすぎる自分。


「ねぇねぇ。魔王様は『黒薔薇姫』と恋人同士だったの?」


 ブッとお茶を吹き出す。漆黒の目がうろたえている……やはり……恋人?


「待て!?どうしたらそうなる!?あいつとなんて勘弁してくれ。体がいくつあっても足りない!……いいか?マナ、世の中には近づかないほうがいいものがある。その一つが『黒薔薇姫』だ。覚えておけ」


「じゃあ、なんで魔王様は『黒薔薇姫』を探していたの?」


 好きだからでしょ!?とあたしはじいいいいっと目を見るとしっかり見返してくる。


「事件が起こったとき、魔界は魔王不在の時期で、オレら魔王候補が対応にあたった。『黒薔薇姫』が犠牲になって、オレらを助けたような形になったんだ。それで……もし人の世界いながらも魔界に帰りたいと思っているなら連れ戻したかった。勇者一行は退けたが、聖剣の力でやられ、時空の歪みを閉じるために人の世界へ消えた……あいつ、自分一人の代償で済ますほうが良いと笑っていたが、残されたこっちの気持ちはどうなんだよ?一方的で、昔から勝手なんだっ!」


 魔王様がイライラしてきた。これでは1番聞きたいことが聞けなくなってしまう。あたしは慌てて口を開く。


「魔王様はあたしと『黒薔薇姫』は同じだと思っているの?それとも別人なの?」


 気難しい顔がキョトンとし、どこか可愛い魔王様になる。


「魂は同じだが、別人だろうな。だが似てるところもある。けっこう頑固なところが似ている……だが、マナはマナでいいんじゃないか?」


 あたしは思わずフフフッと笑い、頬が緩んだ。


「な、なんだ!?いきなり笑うなよ」

 

 魔王様が怯む。


「100点の答えだわ!」


 何がだよ!?とわかっていない魔王様だが、あたしは聞くことを恐れていたが、聞いて良かったと安心した。


 あたしはあたしでいいのだと好きな人に言われること……これほど嬉しいことってないよね?

 

 


 

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