みにくいのはだぁれ?
入場が終わり、ミューズはティタンとファーストダンスを踊る。
すっかり体が大きくなったティタンのリードにミューズの足は浮いてしまう。
クルクルと動くとドレスの裾がふわりとたなびいた。
妖精のような身軽さだ。
「すまない、もう少し二人で練習すれば良かったな」
「これはこれで楽しいわ」
飛ぶようなステップは軽やかで楽しそうだ。
「ミューズに皆釘付けだ。少し妬いてしまう」
「物珍しさではない? 根暗令嬢がこんなに笑うんだって」
うふふと笑うその笑みはとても優雅だ。
人脈作りのため出た茶会はだいぶ厳選していた。
エリックのリストを見て更に裏取りをし、王家やスフォリア家に仇なす事がなさそうな家柄を探した。
茶会に出席しても、魔法の事を話せない者もいたが、人柄は知ってもらえたはずだ。
噂だけ知っていて、本日初めてミューズを直に見る者も多いだろう。
「それでも見られるのは嫌だ」
ダンスが終わり、そわそわとこちらを窺う視線。
ダンスに誘いたい令息や話を聞きたいと言わんばかりの令嬢がいる。
中にはミューズを過去に蔑んだ者達も。
「ティタン殿下、ミューズ様。素敵なダンスでしたね」
そのうちの一人、カレンが話しかけに来た。
ピンクの髪をくるくると巻いており、水色の瞳からは面白くないといった様子が窺える。
隣には金髪碧眼の婚約者、ユミルがいる。
同じくエスコートだったのだろう。
「ありがたい言葉だが、君は誰だ?」
ティタンは知ってはいたが、敢えて名を問う。
自分を知らないと言われ、カレンは不機嫌な顔を隠しもせずティタンと向き合った。
「カレン=サラエドです。嫌ですわ殿下、何回もお会いしたでしょう。婚約者選びの茶会でも」
「すまない、覚えていない」
きっぱりはっきりと切り捨てる。
本当は覚えている、兄に猫撫で声で近づいていた女だ。
そして大臣の娘。
「そちらは?」
ティタンは今度はユミルに視線を移す。
こちらの男もティタンは知っているが、一応聞いておいた。
「イースティ公爵家の次男ユミルと申します。カレン様の婚約者です」
恭しく礼をする。
「ミューズ様もデビュタントだったのですね。一緒とは知りませんでしたわ」
ユミルの次の言葉も遮り、カレンが馴れ馴れしく話してくる。
「えぇ、私も。カレン様が一緒とは存じ上げておりませんでした。奇遇ですね」
ニコニコとしたやり取り。
父が重臣同士であるがカレンは常にライバル視して接してくる為、ミューズも強かに行くと決めていた。
同じくカレンから嫌がらせを受けていたレナンからもだいぶアドバイスが来ていた。
「ユミル様もはじめまして。お噂は聞いておりますわ、お二人とても仲がよろしいそうですわね」
ミューズは上目遣いでわざとそう言う。
可愛く見えるよう角度を考え、甘えた声を出した。
メイリィとフローラと練習した男性に効く技だ。
ユミルは頬を赤く染め、少し照れ臭そうにする。
カレンがムッとしているのが見えた。
「ありがとう。ミューズ様は噂と違い、とても綺麗だね」
うっかりと言った言葉にユミルは思わず口を押さえる。
「噂、か。ユミル殿はどのような噂を聞いたのだ?」
ティタンはそう問いながら、優しくミューズの体を抱き寄せる。
少しヤキモチを妬いていた。
「ミューズ様がお金と引き換えに美貌を手に入れたって話ですわ。ティタン様は騙されておいでなのです」
カレンが横から口を出す。
その口調は自分が正しいと自信を持ったものだ。
「私がお金と引き換えに?どうやって?」
心外だと大袈裟に驚いて見せる。
「どうせうまく取り入ったレナン様が、王家からお金を出させて、ミューズ様の顔を魔法で変えたんでしょ?じゃなきゃ根暗令嬢がこんなに変わるわけないもの」
動揺している様が図星をついていると確信したのか、カレンは断罪を続ける。
あくまでミューズの顔は作り物だと信じている。
「あら、そのような魔法があるの?知らなかったわ。それにしても根暗令嬢なんて酷い言葉、傷つきますわ」
ミューズは体を震わせティタンに抱きつく。
か弱く怯え、男に縋る姿。
わざとらしいミューズにカレンは苛立った。
「白々しい、本当は身も心も醜い癖に。王家に取り入るなんて図々しいのよ、ましてやエリック様を誑かすなんて、姉妹揃って狡賢いのよ!」
沸点が低い人ね、とミューズは泣き真似を続け、ティタンにしがみついている。
「醜いなんてカレン様ヒドイわ! 私、誑かすなんて事してないのに!」
大きな声で盛大に悲しむ。
我ながらあざとい演技だ。
「カレン様……私が綺麗って言われたから、羨ましいのですか?」
ミューズは今度は小声でカレンを焚きつける。
「私があなたを羨ましいですって?!
誰があなたみたいな不細工を……!」
「カレン、もう止めよう」
ユミルがカレンの腕を引く。
「何よユミル、あなたまでこの女の味方をするの?!」
「そうじゃない、周りの視線を見てよ!」
カレンは周りの視線にハッとした。
非難するような視線はミューズではなく、カレンに注がれている。
「このような場で俺の婚約者を貶すとは、貴様立場をわかっているのか?」
ティタンのこめかみには青筋が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます