兄弟姉妹

「お姉様!」


「ミューズ、良かった! 一人にしてごめんなさい」


走ってくるミューズを優しく抱きとめる。


「一緒にいるって約束したのに離れてしまって……すぐに探したけれど、見つからなくて心配したわ」


「私の方こそごめんなさい。茶会の席から離れてずっとティタン様といたの。たくさんお話してくれてたのよ」


ミューズの後ろから来た薄紫色の髪をした少年がティタンなのだろう、レナンはすぐに挨拶をする。


「ティタン殿下、妹をありがとうございます。わたくしの大事な妹でしたから心配でしたわ。殿下のような頼りがいのある方にお側にいてもらえて、よかったです」


ふわりとレナンが笑うとティタンは照れてしまう。


「いや、俺は茶会にいたくなかったし、ミューズ嬢と話が出来たのは楽しかった。礼を言うのはこちらだ」


レナンから目を逸らし、クスリと笑う兄が見えた。


「兄上。茶会の主役がいつまでも席を離れてはいけないのでは? すぐお戻りになられた方がいいですよ」


やり取りを笑われたと、ティタンは拗ねた口調でそう云う。


「お前も主役だろうに。弟と楽しく話をしてくれたミューズ嬢に俺からも礼を言う。ありがとう」


「いえ、エリック殿下。勿体なきお言葉です。私のほうがティタン様の優しさに救われておりました、御礼を伝えるのはこちらの方でございます」


優雅に礼をするミューズは噂のような令嬢ではなかった。


少なくともエリックの目から見たミューズは並以上の令嬢である。


(噂は全く違うな。絵姿も全然違う)


値踏みするような目線は弟によって遮られる。


「兄上、ミューズ嬢は俺に優しくしてくれた。何も嫌な目になど遭ってない」


何かされるのではと懸念したようだ。


「疑ってなどいないさ。俺の婚約者の妹がこんなに可愛いのかと見惚れていただけだ」


「お姉様がエリック殿下の婚約者?」


「そんな事は「そうだよ、ミューズ嬢。先程プロポーズさせて頂いた」


レナンが否定するより早く、エリックが返事をする。


ミューズの目はキラキラと輝いた。


「凄い、凄いわお姉様! お姉様ならきっと素敵な王妃様になれるわ! こんなに優しくて、こんなにキレイなお姉様だもの。絶対大丈夫」


「ミューズ……」


断ろうとしてたなんて、言えない雰囲気になってしまった。


「兄上も婚約者を見つけられたのですね……」


ティタンは言いづらそうであった。


流石に同じ家から二人も王家に娶るのはと、遠慮したのかもしれない。


「ミューズ嬢もティタンと婚約してくれるのだろ? 大切な弟が君のような可憐で優しい人を伴侶に出来たら嬉しい、俺からもよろしく頼む」


ミューズとティタンは驚いていた。


「何で、そんなことを、」


「俺がわからないわけないだろ。挙動も仕草もミューズ嬢を庇おうとしている。女性に不信感を抱いていたティタンが、ミューズ嬢だけ特別扱いをしているのだ。気付かないわけがない。

ミューズ嬢は自分に自信がないようだが、とても美しいしレナン嬢から様々な話も聞かせてもらった。優しい家族思いの者だと」


ミューズはモジモジとしていたが、ティタンの表情は嬉しそうだった。


兄にミューズを認められたので安心したのだろう。


「金の髪に白い肌。そこらの令嬢より綺麗だ。オッドアイも珍しいけど綺麗だね。青色の瞳はレナン嬢と似てとても美しい。パッチリとした目も長いまつ毛も、姉妹揃ってとても似ているよ」


その表現にニコラがビックリしているようだ。


(……人により、見え方が変わるのか?挙動がおかしい)


後で聞いてみるかとその場は気づかぬ振りをした。


「まずは茶会を終わらせてこよう。アドガルムのスイーツや花を堪能してくれているだろうが、帰りたい令嬢も増えてるだろうからね」


王子たちがいなければただの茶会だ。


充分な時間になったろうし、皆で元の会場へと戻る事にした。

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