梅酒売りの異世界幼女は、聖女を拒否る!

武蔵野純平

第1話 お酒は何歳から飲めますか?

「梅酒~! 梅酒~! 疲労回復! 食欲増進! 体に良い梅酒だよ~! さあ、いらっしゃい!」


 私は梅酒の入った樽を路上に置いた。

 これから商売タイム!

 梅酒の量り売りをするのだ。


「おお! 聖女様の梅酒だ!」


「私は聖女じゃないわよ! さすらいの梅酒売りだって言ってるでしょ!」


 私は、神によって聖女に選ばれたらしいが、そんな面倒な立場は真っ平ご免だ。


 自分で造った梅酒を、町の人たちや冒険者たちに売る。

 そんな気楽な立場が、丁度いい。


 私が梅酒を売り始めると、わっと人が群がる。

 きっと今日も完売だ。


 蝶谷真央、改め、マオ・チョウタニ。

 お酒大好きメシマズOLだった私だけど、異世界に転生して生活しています。


 まあ、幼女になっちゃったのは計算外だけどね。



 *



 ――一月前、私は日本で営業OLをしていた。


 酒好きの私は、いつものように同僚と居酒屋で飲んでいた。

 実はメシマズだから、自炊しないで毎晩『飲み』なのは内緒ね。

 ところが居酒屋の座敷で、急に意識が遠のく……。


 気が付くと、美しい森の中だった。

 目の前にはキラキラと輝く泉と沢山の花々が咲き乱れている。


 おかしい!

 私は大衆居酒屋にいたのに!


「えっ!? ここは、どこ!?」


「ここは、妖精の園よ」


 動揺して思わず口にした言葉に、返事がした。

 女の子の声だ。


 でも、私の周りには誰もいない。

 声はどこから聞こえたの?


「誰? どこにいるの?」


「ここよ。あなたの後ろ」


 振り向くと一本の木が立っている。

 梅の木だ。


「えっ!? 梅の木がしゃべってるの?」


「違う! ここよ!」


 声の元を目でたどる。

 木の枝には沢山の実がなっていた。


 そして一本の枝に、お人形サイズの小さな女の子が座っていた。

 背中には透明の羽が生えていて……、妖精に見える。

 小さな女の子は青いフリフリのドレスを着て、カワイイ笑顔で私に手を振る。


「まさか……妖精!?」


「そうよ。梅の妖精よ」


 梅の妖精……。

 名前はプラムちゃんかしら?


 私は小さい子に話しかけるように、ゆっくりと梅の妖精に話しかけた。


「私は蝶谷真央。あなたの名前は、なあに?」


「バッカスよ」


「バカス?」


「バッカス!」


 あ……、残念……、予想が外れた。

 プラムちゃんじゃなかった。


 しかし、梅の妖精の名前は、バッカスちゃんか。

 偶然だろうけど、お酒の神様と同じ名前だ。

 やっぱり私はお酒にご縁がある。


「ねえ。バッカスちゃん。私はどうなったの? 私はお仕事仲間と飲み……、いえ、食事をしていたのだけれど、気が付いたらここにいたの。何か知らない?」


「あなたは聖女として生まれ変わったのよ! おめでとう!」


「……はい?」


 聖女っていったい何のこと?

 それに生まれ変わった?


 梅の妖精バッカスちゃんは、私を祝福しているけれど、私は全然嬉しくない。


 それよりも――。


「ねえ、バッカスちゃん! そんなことより、焼き鳥とホッピーはどこ?」


「そんなことって……! 聖女だよ! 聖女!」


「いや、聖女ってなんだかよくわからないし。それよりも焼き鳥とホッピーでしょ! どこ?」


 私は空腹と喉の渇きを感じて、焼き鳥とホッピーが辺りにないか探す。

 すると、バッカスちゃんが、ため息をついた。


「はあ……、ここにはないわ。あなたは違う世界から転生したの」


「……はい?」


「ここはあなた……ええと……チョ、ウ、タニ、マオ……」


「バッカスちゃん、私の名前が発音しづらいの? マオでいいよ」


「マオね! ここはマオのいた世界と別の世界なの! 神様が聖女としてあなたを選んで転生させたのよ! ほら、そこの泉で自分の姿を見て!」


 バッカスちゃんに促されて、私は泉をのぞき込んだ。

 水面に私の顔が映る……誰これ!?


「えっ!? ちょっと!? これが私!? 子供じゃない!」


 私の顔は丸くふっくらとした子供顔で、どう見ても幼女だ。

 改めて自分の体を観察すると、背は低いし、手も小さい。


 どうやら幼女に転生されられてしまったらしい。


「バッカスちゃん! 何で私は幼女なの!?」


「ここは妖精の園だから。妖精の園に大人は入れないの」


 納得できるような、出来ないような……。

 けれど、まず大切なことを確認しなくちゃ!


「バッカスちゃん! この世界では何歳からお酒を飲めるの?」


「……特に決まりはないけれど、子供はお酒を飲んじゃいけないんだよ」


「ノーーーー!!!!!!」


 バッカスちゃんは、私の質問に簡潔に答えてくれた。

 絶望しかない。


 私!

 お酒!

 飲めない!

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