第9話 策士考える

青葉書店、1980新年の営業日は8日からだ。


いろは は年明けから店に来ると言ってはいたが、策士の修一としてはそれを『必ず』というものにしたかったのだ。


『策士策に溺れる』という言葉も昔の偉人が言っていたが、そのようなリスクは知っての事。


その作戦に修一が没頭し始めると父親と母親は真剣に心配し始めた。


なぜならば、修一は大晦日も返上して、今まで物置のようになっていた部屋の机に向かっていたからだ。上を向いては目をぱちくりして、時々うなずいてはメモ用紙に何かを書き留める。そうかと思えば、今度はメモをクシャリとしてゴミ箱に投げ入れる。


そんな様子をふすまの隙間から目撃すると、いよいよ病院の初診察日を調べてしまう母の春子だった。


正月も訪ねて来た親戚へそれなりに丁寧な挨拶をしては、また部屋に閉じこもる。


「出来たー!!」と大きな声とともに階段を駆け下りて、お雑煮とおせち料理をついばみ始めたのが2日目の夜だった。

正月番組を寝そべりながら観て、お尻をポリポリ掻く修一の姿を見て、春子は心底安心したという。


だが、翌日、公園で何かを呟きながら地面に伏せている姿を春子に目撃されなかったのは幸いな事だった。


6日に一足早く商店街の文具屋で可愛らしい封筒を購入した修一は、原稿用紙を丁寧に折りたたみ、明大前に向かった。


もちろん いろは のアパートに向かったのだが、修一としては いろは が留守であることを祈った。

アパートの外から部屋の窓をキョロキョロと確認する。


完全に不審者だ。

警察が居れば職質は間違いない。


いろは が留守なのを確認すると、ドアの隙間に封筒を差し入れ、ドア脇には小さな鉢植えを置いておいた。


鉢植えの中には少ししおれてはいたけど四つ葉のクローバーが植えられていた。

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